内容説明
物憂げな陶酔、エレガントな嘘。デラシネの女、イヴォンヌ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
183
アルジェリア戦争というのが我々には想像し難いのだが、フランスの人達には重くのしかかっていたのだろう。小説の舞台は、その時期のサヴォワ地方のアヌシーあたりに置かれ(湖の対岸はスイス)、ある種の緊張と弛緩との狭間に物語が展開する。主要な登場人物は3人だが、彼らは一様にその正体が曖昧である。そもそも語り手の「ぼく」からして、シュマラ伯爵を自称するが、それは明らかな詐称である。イヴォンヌもまた霧に包まれている。医師のマントがまだしもだが、彼もまた謎を秘めている。時間と空間の彼方に浮かぶ茫漠とした味わいの小説だ。2014/12/20
マリリン
44
映画なら、幻想的で芳香なフランスの香りが漂う官能的な作品だろうと思いつつ、既読の「パリの尋ね人」などとは少し異なる味わいがする、主人公の伯爵(自称か...)が語る短い夏の日の回想。「タキシードジャンクション」や「会議は踊る」などから古き時代を連想させ、パソドブレを踊るシーンなどが時代を交錯させる。存在すら曖昧な感じがするストーリーは、つかみどころがないような感覚も持ったが、終始耽美な情景が脳裏に浮かぶ作品に惹きつけられる。モディアノ作品の不思議な魅力を感じた。2022/09/26
らぱん
40
ここにあるのはうたかたの夢の時間だ。道の名とそこに並ぶ店の生業と名が延々と羅列される。主人公は明らかに詐称しており彼に絡む二人の人物もいかがわしい。そもそも国境の町やそこに群がる人にはある種の胡散臭さがあると思っているのだが、まがいものの煌めきは儚さと危うさの中にこそあるのかもしれない。背景のアルジェリア戦争は遠くに霞んでいる。何者でもない誰かのどこでもないどこかの物語は普遍性を持つ。その昔、ルコントの映画で観たときにはいかにもフランスと思ったのだが…。ディテールが語られれば語られるほど実体は消えていく。2020/07/28
ほりん
26
今年のノーベル文学賞パトリック・モディアノの作品。受賞理由は「最も捉え難い人々の運命を召喚し、占領下の現実を暴露する記憶の芸術に対して」とのこと。この作品は代表作ではなかったようで,作品選びにちょっと失敗したかも。かなり叙情的で捕らえにくかった。1960年代アルジェリア戦争の頃,フランスとスイスの国境の村が舞台。18歳で兵役を逃れるためパリから来た青年,デビューしたばかりの女優,医者らしき男,3人の出会いと根無し草的生活が描かれる。3人の素性は明らかにされず,背景に社会情勢や不安な空気が織り込まれていく。2014/10/18
kthyk
18
ポストモダンの代表作家の映画で有名な作品。映画も読書も未見、未読だったので多いに楽しめた。物語はモディアノ独特の失われた過去を遡る瞑想と回想。しかし、時間と空間だけは明解。舞台はフランスとスイスの国境のリゾート地。国境であることから、どこか怪しい人々、その背景はアルジェリア戦争。デラシネ的登場人物はボク、18歳のヴィクトール・シュマラ伯爵、女優イヴォンヌ・ジャケとルネ・マント博士。博士はボクが12年後に訪ねた時には38才で自殺。原題は「哀しみの館」、博士の家の白塗りの剥げた門に不器用に黒で書かれていた。 2022/10/13
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