内容説明
中学一年生のあさぎは、母の再婚と私立中学への入学を機に新しい町に越してきた。新しい家族にも新しい学校にも馴染めない彼女の心の拠り所は、近所の郵便局に勤める青年、中村だった。―だから私は、中村さんのその「にこっ」という個人的な笑顔を見に郵便局に通うのを、誰にも秘密の、ささやかな楽しみにするようになっていた。子供でいられない子供達と大人になれない大人達の出会い。第二十二回小説すばる新人賞受賞作。
著者等紹介
河原千恵子[カワハラチエコ]
1962年東京都生まれ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おしゃべりメガネ
123
「小説すばる新人賞」受賞作です。2010年の作品で10年以上も前の作品になりますが、こんなステキな作品を知らなかったとはなんて勿体なかったのだろうと、素直に後悔しています。母親の再婚とともに学校も変わるコトになった中1の「あさぎ」は友達もうまく作れず、悩んでばかりの毎日を過ごしています。そんな彼女の支えは近くの郵便局に勤務する青年「中村」とのささいなやりとりだけ。子供が素直でまっすぐな子供でいられない子供達と、大人がちょっとねじれて大人になりきれない大人達との出会いが深く描かれていて、じんわりときました。2022/10/14
優希
92
繊細で美しい物語が胸に迫りました。中学生の少女・あさぎと郵便局員・中村の孤独がやるせない。2人とも自分の居場所を求めている切なさにとても共感します。子供でいられない子供と大人になりきれない大人が現実と直面する中でもがき苦しみつつ、成長していく姿が愛おしい。置かれている状況に馴染めず、落ち着かない感情が痛いほど伝わってきました。2人とも毎日を過ごすのに必死な気持ちを抱えているのだと思います。息苦しさを感じつつも希望を見せてくれるような気がしました。2016/12/12
モルク
72
発達障害に苦しむ郵便局員中村と、母が再婚し新しい父親と暮らすこととなった中学生あさぎの章が交互に描かれている。思春期での母の再婚、そして新しく弟ができることに素直に喜べず不安がはしる。かつて母を守り母を幸せにしなければならないとがんばってきたものが、その存在を継父にとって変わられる事への素直になれない感情、家庭内でのピリピリした感情が伝わってくる。ある件をきっかけに、あさぎがフッと肩の力を抜き継父にも心を開くときが…解き放たれていく思いに涙溢れる。こんな優しい話に心を癒される。2018/03/09
konoha
62
人はこんなふうに静かにゆっくりと変化していくものではないだろうか。作者の瑞々しい感性、丁寧な文章が心地良い。母が再婚した中学生のあさぎと郵便局で働く中村の視点から2人のささやかな関わりを軸に交互に語られる。後半は一気に緊張感を増した。登場人物が上手く生きられず心身に不調をきたす様が辛くなることも。それでも静かな危うさがにじむ言葉の一つひとつから目が離せない。この小説の大人たちの怖さは真っ当でしっくりくる。終盤のあさぎの行動に自然と涙があふれた。物語の中の人が感情を持って生きている。出会えて良かった一冊。2022/11/02
おかだ
60
なんだか泣けて泣けて仕方が無かった。思春期真っ只中に親の再婚と環境の変化で自分の置き所を見つけられない中学生のあさぎ、生き辛い事情を抱え自分を否定し続ける郵便局員の中村さん、二人がお互いを心の支えに日々をやり過ごす。子供が思うほど、大人は全然立派ではない、正しくもない。それでも大人が、親が、13歳の子供に全力で寄りかかって甘えるもんじゃない。何をやってるんだと悔しくて情けなくて腹が立った。子供に寄り添い支えられる大人になりたい。子供が、多感な時期に自分を否定せずに生きられるように。2018/01/13