内容説明
現代を予見する「乱世」の記録発見。1945年上海、敗戦の混乱を克明に記す27歳の青年は何を見、何を考え、どう生きたか。「乱世」を見つめ続けた作家・堀田善衞の思索の原点。
目次
日記1の1(一九四五年八月六日(月)~四六年七月一日(月))
日記1の2(一九四六年七月三日(水)~十月二十七日(日))
日記2(一九四六年十一月八日(金)~十一月二十九日(金))
中国、上海をめぐる評論、随筆と対談(評論・随筆(反省と希望;上海で考えたこと;暗い暗い地下工作;個人的な記憶二つ;魯迅の墓その他)
対談・上海時代(堀田善衞;開高健))
著者等紹介
紅野謙介[コウノケンスケ]
1956年、東京生まれ。早稲田大学文学部卒業、同大学院中退。島崎藤村、徳田秋声、中里介山など、日本近代文学を専門とし、文学が生み出されるメディア環境、歴史との関係について研究。現在、日本大学文理学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
みねたか@
29
日本の敗戦,中国の解放という歴史の転換期を上海で過ごした作家の日記。亡命者,流浪の人,スパイも入り乱れ,巷にはアメリカの物資が溢れる。退廃的であり底知れない不気味さを湛えた町の姿。日本人と中国人。その相違を冷静に観察しつつ,人間の極限の姿を見定めんとするように街を彷徨う。そして,人妻Nとの恋情。彼女が帰国して後の思慕の念。詩人の言葉がまばゆく輝く。語学に堪能な知識人にして優れた詩人でもある作者の魅力にあふれた書。巻末,武田泰淳をしのぶ開高健との対談で,当時の姿がより生き生きと蘇る。2019/10/25
波 環
0
作家の若いころに会えてうれしい。今の日本人がアジアとの関係で靴の下の痒さとして感じていることを、敗戦前後の上海で靴の中の痛さとして体感していた、のかな。それでも街を歩きつづけなければいけなかった詩人の日記。2014/02/21
almondeyed
0
やはり物書きというのは、戦中戦後の混乱した状況をこのように書き留めておくのだなということを再認識した。ジャン・コクトーも然り(占領下日記)。コクトーの方は誰かに読まれる事を前提とした開かれた日記だったが、堀田善衛の方は、もっとプライヴェートな印象が強い。が、これもいつ誰かに押収されてもおかしくない状況で書かれていたという事を解説によって知る。それはともかく、当時の上海にいた文学関係者の人脈を、この本を読んでからもっと深く調べたくなったのであった。2013/01/12
としゆき
0
27才、上海で日本敗戦の日を迎えた頃の堀田さんの日記。日本が敗れ「これからどうなるのか」という不安や、虚無感に押し潰されそうになる等、堀田さんの人間的な側面が見られる。27才の青年らしく、後の伶子夫人との情熱的な恋愛やお酒を飲み過ぎた話が頻繁に出てきたのも面白かった。終戦直後の上海の政治的・経済的混乱や、その後の国共内戦に突入していく経過、その中での中国人や日本人の様々な振る舞い。現場にいなきゃ分からない生々しい空気が伝わってくる気がする。2012/01/22
koz
0
日本敗戦を上海で文化振興会の一員として迎えた堀田善衛二七歳の頃の日記。終戦の1週間ほど前から始まるこの日記では敗戦という決定的な運命を迎えた日本の文学青年が上海で日本国家や民族の行く末についてどのように感じ、庶民として過ごしたのかが切々と語られている。日記というごく個人的な観点で彼や彼の周りの人間がどのように想い、そして語ったかがつづられている。現代のアジアは大きく様変わりしたが彼が感じた日本、中国、アメリカのズレはまだかわらずここに存在するように思う。2010/03/28




