出版社内容情報
T・マンとヴィスコンティの記念碑的名作
初老の作家アシェンバハは、旅先のベニスで神々しいまでの美少年に出会う。自らの芸術的信条を抛って、少年の官能美に酔いしれていく作家。ニュープリント映画原作。
内容説明
高名な初老の作家アシェンバハは、ある日旅の誘惑に駆られ、ヴェネツィアへと旅立つ。そこで彼が出会ったのは、神のごとき美少年タジオだった。その完璧な美しさに魅了された作家は、疫病が広がり始めた水の都の中、夜となく昼となく少年のあとをつけるようになる…。官能の焔に灼かれて朽ちていく作家の悲劇を、美しい筆致で描いた文豪マンの代表的傑作。巨匠ヴィスコンティの名作映画原作。
著者等紹介
マン,トーマス[マン,トーマス][Mann,Thomas]
1875年、北ドイツの商業都市リューベックの商人の家に生まれる。父親が亡くなると、家族と共にミュンヘンに移り、保険会社の社員として働きながら、創作活動をはじめる。ショーペンハウアーやニーチェの哲学、ワーグナーなどから多大な影響を受ける。1929年、ノーベル文学賞受賞。1955年死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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まふ
139
実に数十年ぶりに読んだ。大学時代のクラブ活動で某女子大と新宿御苑で読書会をした時の思い出がありありと浮かぶ。懐かしいドイツ的観念世界が眼前に広がる。小難しい理屈を並べていた小説家アシェンバハが街で見かけた美少年に次第に惹かれ、メロメロになりついに「追っかけ」となるがコレラにかかってあっけなく死んでしまうストーリーだ。その後類似の物語が多く出てきたことを考えると、先達の書ともいうべきか。G1000。2024/01/18
こばまり
49
格式高い文章で綴られた身も蓋もない哀れな恋の物語。しかし何と言っても香ばしいのは巻末の解説で池内紀氏も示す本作の誕生秘話である。私がマン夫人なら舌打ちものだ。かつて観た映画のワンシーンが瞼に浮かび、またアシェンバハを演じたダーク・ボガードの自伝にも触れていたので一層興味深かった。2016/04/10
metoo
48
何度も観た映画「ヴェニスに死す」の原作を読んだ。50歳の文豪グスタフ・アシェンバハは旅に誘われヴェネツィアを訪ねそこで美少年タドゥツィオに出会い目が離せなくなる。作者トーマス・マンがマーラーの訃報を旅先のヴェネツィアで聞いたことから生まれた話しで、主人公のグスタフはグスタフ・マーラーから来ているなどの諸説は有名である。原文で楽しめないのが悲しいくらいの美しい表現であり描写である。滑稽な最後が美しく心に長くとどまる。2014/06/26
優希
46
描写が美しく、官能の焔が燃えているようでした。初老の作家・アシェンバハが訪れたヴェネチアでの出来事が描かれています。アシェンバハが出会った美少年・タジオに魅了されるアシェンババの悲しい運命が物語に悲哀の色を染めていると思います。完璧な美しさのタジオと、彼を追うアシェンバハ。しかし、ヴェネチアでは恐ろしい疫病が流行っていたとはなんて運命は皮肉なのでしょうか。官能的な美しさに燃えるような想いを抱えつつ朽ちていくラストが印象的でした。2014/08/06
みっぴー
43
有名なタイトルです。その内容は『中年の詩人が旅先で見かけた美少年をストーキングする』話です。え?と思われるかもしれませんが、読んでびっくり。美しいものを前にした時に感じる高揚感や焦燥、近づきたいけど近づけない…要するに〝胸の高鳴り〟をリアルに表現した文学的価値が非常に高い作品。圧倒的な美は無条件で人を虜にしてかしづかせる。綺麗な女の人を見ると目で追ってしまうのは、男性だけではありません。綺麗なものを愛でるのは遺伝子に組み込まれたプログラムなのでしょうね。2016/01/25