内容説明
驚異的に頑強な８６歳の父の顔面を麻痺が襲った。検査の結果、脳に腫瘍があることが判明したが、私は高齢の父にリスクの高い手術を受けさせる決心がつかない。ユダヤ系移民２世として人生を闘い抜き、家族を護るために身を粉にして働いた情愛深い父が、病魔に蝕まれていく。そして壮絶な介護の日々、私は驚くべき“遺産”を受け取った。感動の全米批評家協会賞受賞作。
著者等紹介
ロス，フィリップ［ロス，フィリップ］［Ｒｏｔｈ，Ｐｈｉｌｉｐ］
１９３３年ニュージャージー州でユダヤ系アメリカ人の家庭に生まれる。５９年発表の処女作品集『さようならコロンバス』で全米図書賞受賞。６９年『ポートノイの不満』が年間ベストセラー１位、その後も全米図書賞、米国批評家協会賞を２度、ペン／フォークナー賞を３度受賞、現代米文学を代表する巨匠への道を歩み続けている
柴田元幸［シバタモトユキ］
１９５４年東京生まれ。東京大学文学部教授。専攻はアメリカ現代文学。２００８年より雑誌「モンキービジネス」を責任編集（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
りつこ
37
数パーセントの可能性に賭けて手術を受けることも戦いなら、延命治療をしないことも戦いなのだということを教えられた。どんな風に死ぬかということはどんな風に生きてきたかということの裏返し。ここに出てくる父親、独断的で頑固でめんどくさい人だけどなんて魅力的なんだろう。フィリップロスがこんなにシンプルで力強い私小説を書いたということに驚くがこれがフィクションでないという確証はどこにもないということにも…。でもそんなことたいした問題ではない。なぜならここには生身の人間が描かれてるから。これが文学の力。素晴らしい。2018/09/08
ちゃっぴー
12
脳腫瘍に冒され衰えていく父とそれを看取る息子フィリップ・ロス。独善的で頑固な父に苛立ちがあったが、ユダヤ系移民で家族のために身を粉にして働いた父が弱っていく姿に護ってやらなければという気持ちを抱くフィリップ。ありのまま飾らず素直に綴られている。読んでて自分の父を看取ったときと重なり泣けてきた。フィリップ・ロスの父に対する想いも深く共感する。2022/02/26
かんやん
12
｢プロット・アゲインスト・アメリカ｣を読んで、ロス家のファンになった。日本の私小説作家なら、肉親の死を決してこのように書くことはないだろう。一種の、のろけ話みたいだもの。もちろん、一筋縄ではいかないし、重い話ではあるのだけれど、とにかくユーモラス。中卒の父は家族のために必死に働き、息子を大学にやり、高学歴の息子は父の独善性に反抗する。それも、過去の話だ。乱暴なタクシー運転手との会話、野球を巡る父との電話、アウシュビッツ体験者の書いた手記、メロンを選ぶ難しさ、すべて微笑ましいではないか。救われました。2017/02/11
moco
7
飾り気がなく率直な言葉で語られる父と子の物語は、その率直さゆえ、父を思う子の気持ちがずっしりとストレートに胸に響き、純粋な感動を与える。父と子という重く複雑な関係を、子であるフィリップ・ロスが父の闘病や死を通してひとつずつ乗り越え、受け入れていくという描写には、父という存在を持つ私たちすべての子どもたちが勇気づけられるかのようだった。家族の中で生き、そして死ぬということの意味を強く意識させられる作品であった。2010/11/30
明石
6
素晴らしい本に出会ってしまった。小説家フィリップ・ロスが父の病死に際して綴ったノンフィクションの作品。ロスの小説はデビュー作を読んだだけで敬遠していましたが、これまでこの作家に触れてこなかったのをいくぶん後悔するくらい素晴らしい作品でした。円熟期を迎えた作家が、得意のユーモアと文章的技巧をそれとなく織り交ぜつつ、あくまで厳しい現実に目を向けて書き綴った物語、という感じがとても好印象。この作家のセンスとても好き。ロスの翻訳は絶版になっているかそもそも未訳のものが多数なので、いずれは原書で漁ってみようと思う。2021/11/09
