内容説明
架空の小国に君臨している大統領は、街道筋の娼婦を母に生まれた孤児であった。若くして軍隊に入ると、上官を裏切り、あくどい手段で昇進をかさねて今日の座についた。年齢は150歳とも250歳ともいわれ不詳。絶対的権力を持つ大統領の奇行、かずかずの悪業、彼に仕える部下たちの不安、恐怖、猜疑に満ちた日常を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
meg
37
再読。内容もさることながらやはりマルケスの世界観は唯一無二だ。力強いというか人間臭いというか、とにかく魂の叫び。一人の人間から繋がるさまざまな人間。面白いに決まっている!2024/10/16
ミツ
25
めくるめく混沌、やかましい喧騒に彩られていながらもなお、どうしようもなく強く感じられる侘しさ。改行なしでびっしりと書かれた、誰のものとも知れない多数の錯綜する声によって語られる大統領の常軌を逸した乱行の数々は、さながらグロテスクなカーニバルのようでありにぎやかなことこの上ないが、その喧騒の裏面にいて、途方に暮れて一人佇む憐れな老人の姿を私は見た。絶対的な愛の不在と癒すことのできない孤独、裏面からしかこの生を知りえなかった彼のことを考えながら、静かにこの濃密で滑稽で哀しい物語の余韻に浸っている。2014/11/05
田中
24
権力を掌握した者が、その権力を離さないために生きた独白物語。政敵を見つけては抹殺し、人妻だろうと女には見境なく手をだす。政策に関心はない。暗殺を恐れ度か過ぎるほど臆病に鍵をかけた寝室。が、満足な睡眠はえられない。わびしい独裁者は、おふくろのベンディシオン・アルバラドがただ一人の庇護者だった。ある日突然「閣下」と報告がある。この世はろくでもない現況。司教も大使も将軍も民衆も、だれもかれもうさん臭い者たちの集まり。おふくろ亡き後も悲嘆な語りかけが続く。とめどない奇抜な想念が渦巻く様相に圧倒されてしまいます。 2018/03/21
スミス市松
20
さっさとくたばれと思いながら読んでいたし、読み終わってざまあみやがれと思った。偽史と外史が混然一体となり多様な〈声〉が錯綜する独特の文体がなによりのキモであり、とりわけ大統領の偽史的想像力の隆盛と破綻がフォークナーのトマス・サトペンや中上健次の浜村龍造のそれを上回っている(ように感じる)のも、専らこの文体と物語が緻密に編み込まれたところにあると思う。しかし一方で、爆殺された二千人の子供たちやロドリゴ・デ=アギラル将軍などが物語上の制約を受け〈声〉なき者とされてしまっていることに強い違和感を覚えた。2014/09/07
ぶらり
13
圧倒的密度で語られる独裁者の世界。横暴、欺瞞、倒錯が徹底的に羅列され、独裁者の居城は、瓦礫の山となってそそり立ち、液状化してなだれ落ちるか幻のように霧消するかのよう。膨大な挿話と実像の累積、全体としての虚構、時間的円環がマルケスの魅力、挿話を極めることで「南米」を活写したのが『百年の孤独』であり、実像を極めることで「南米」を活写したのが『族長の秋』。結果として、どちらも南米の虚構とその円環を謳っている。ボルヘス、マルケス、リョサ…密林に分け入り、どこまでも彷徨うことに不思議な満足感を覚える今日この頃。2011/02/09