出版社内容情報
気難しい性格で、家族にも煙たがられる学者の一郎。妻の直の節操を試すため、弟の二郎に、一晩ふたりでどこかに泊まることを依頼するが…。孤独な人間の姿を描く傑作。(解説/藤山直樹 鑑賞/小池昌代)
内容説明
気さくな性格で暢気な高等遊民生活をおくる長野家の次男・二郎。対照的に兄で学者の一郎は常に張りつめた神経を持ち、妻・直と二郎の仲を邪推するまでに精神が追い詰められていた。あるとき彼は二郎に、直の貞操を試すため一夜を共にしてくれないかと言い出す。人を信じ、伸びやかに生きたいと願いながら、出口のない迷宮を巡り続けるひとりの知識人の心理状況を克明に描いた、『こころ』へとつながる「後期3部作」第2弾!写真で見る漱石・用語の注釈・年表・解説文・鑑賞文付き。
著者等紹介
夏目漱石[ナツメソウセキ]
1867~1916。江戸・牛込生まれ。生後すぐ里子に出される。東京帝国大学英文科卒業。1900年から3年、ロンドンに留学。05年『吾輩は猫である』を発表、好評を得る。近代知識人の内面を鋭く描いた小説群は、日本文学の大きな収穫とされる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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aika
49
結婚は女のひとを変えてしまう。妻を信じきれない夫の精神を貫く痛みはこれほどまでに苦しいのものなのか。弟の二郎と自分の妻の仲を疑い、宿屋に一泊して彼女を試すよう持ちかけた一郎の底知れぬ苦悩と不安。嵐が襲った宿で、暗がりに佇む嫂・直の気配や、ふたりの間に立ち込める空気感や微妙な距離が質感を持って感じられます。二郎の友人・三沢の口から幾度と語られる、夫から離縁され心を病んだ女性の話も胸をつきました。西洋の学問にも精通し、完全に理知のひとである一郎の猜疑心と、その深淵な孤独の姿に、どこか引き寄せらてしまいます。2021/02/10
けぴ
45
漱石後期三部作の第二部。P150 「他の心なんて、いくら学問したって、研究をしたって、解りっこないだろうと僕は思うんです」「他の心は外からは研究できる。けれどもその心になってみることはできない」本小説の核心をつく一文。兄一郎の病的な心情を弟二郎が慮って進行するが、結局のところ一郎の本質は何なのか明確な回答はなく終わる。そんな難解な小説であるが、巻末の解説と鑑賞はこの小説をどのように味わうべきかとても参考になった。第三部『こころ』に繋がる作品でした。2025/04/13
扉のこちら側
30
初読。2015年63冊め。神経質で人間不信の兄が嫁と弟の不倫を疑う、というあらすじを知っていたが、物語は弟の視点で進む。このエピソードは必要なのか?と読みながら思っていると、後でなるほどと思わせられる。2015/01/23
ペトロトキシン
20
つい最近NHKで夏目漱石の妻を見たばかりだったので、この作品に出てくる一郎が夏目漱石自身を投影しているとしか思えない。夏目漱石の作品に出てくる女性は妙に挑発的な女性が多いように思うのだが、それに対して男性陣が据え膳食わないような気がするのは気のせいでしょうか?そして、夏目漱石の死因でもあった胃潰瘍が作品に大きな影を落としているのは、夏目漱石が死の恐怖と戦いながら作品を書いていたようにも思う。2016/11/11
ネムル
15
漱石文学史上マックスにめんどい知的ボンクラ一郎兄貴と、やはりマックスに謎を秘めたお直嫂。物語の進行上語られるべき(だが語られない)ポイントを山盛り残しつつも、病院で吐血のたうちまわる芸者、結婚に失敗し気が違った娘、結婚を反故にされ盲目となった女性といった脇筋がいずれも印象的で、その乱反射し続ける狂気に増幅されるように一郎の病も一層重くなる。なんだか同時代の西田幾多郎に影響を受けたような発言も見られるが、そうゆう知的煩悶はもっと若いうちに済ませとけよ!と突っ込みつつも、病み文としての魅力は一読忘れがたい。2018/05/19