内容説明
牧人メロスは、三日後の日没までに処刑されるため、都に戻ってくると王に約束した。人質に親友のセリヌンティウスを置いて。王の暴虐邪智を打ち破り、友の信頼に応えるため、メロスは走る―。名作『走れメロス』ほか、太宰の心弱い少年期の自画像をシニカルに描いた『おしゃれ童子』や『駈込み訴え』、『富岳百景』など中期の頂点をなす12編を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
31
太宰中期の短編集。安定した世界観があります。特に『走れメロス』は力強さすら感じました。自分は何かのために一途になったことがあるか考えさせられました。個人的にはイスカリオテのユダの裏切りを元にした「駆け込み訴え』が特に面白かったです。繊細だけれど前向きなのが良いですね。2024/11/23
優希
27
再読です。やはり『走れメロス』は名作ですね。自分の命以上に何かを賭けて全力を尽くしたことはあるかどうか考えさせられました。『駈込み訴え』を読みたくて手にしましたが、『富嶽百景』『葉桜と魔笛』『カチカチ山』などの作品も改めて面白いと思いました。2025/03/19
tane1
18
『熱海事件』と呼ばれる逸話がある。熱海にいる太宰に妻に頼まれたお金を届けにいった檀一雄。しかし、二人してお金を使い切ってしまい宿代が払えなくなる。壇を身代わりにおいて東京へ帰る太宰(「菊池寛にお金を借りてくる」とか言って)。ところが、いつまで経っても戻らぬ太宰。痺れを切らした檀が東京に戻ってみると、師匠の井伏鱒二と将棋を指す太宰の姿。怒った壇への太宰の一言が「待つ身が辛いかね、待たせる身が辛いかね」…と言う話。そんな「走らなかった太宰」が「走れメロス」を書いたという面白さ。暴君ディオニスもびっくりである。2018/08/20
Our Homeisland
17
学生時代にはそこそこ読んでいた太宰を久しぶりに読みました。やはり、なんと言うか、他にも著名な作家はたくさんいても太宰は別格だな、とあらためて思いました。初めて読む短編も入っていました。「富岳百景」も良いなと思いましたし、今回は特に、「駈込み訴え」や「カチカチ山」が面白いなと思いました。下敷きのある話を書き直すこのスタイルは、太宰の得意とするところだなと感じました。この短編集は、巻末に、「志熊書房版「ちくま文庫太宰治全集」を底本として使用しました。」とありました。2017/01/05
マカロニ マカロン
16
個人の感想です:A-。『女生徒』(太宰治)読書会参考本。新潮文庫版『メロス』に『女生徒』が含まれているので、読んだのだが、太宰の中期の短編小説集としては集英社文庫版の方が小説としての面白さとバラエティがある。新潮文庫版は私小説が5編含まれていたが、本文庫では『富岳百景』他2編。それも含めて、太宰のユーモアやペーソス等のある味わい豊かな短編集になっている。さらに年表や解説も本書の方が充実しており、特に口絵と丁寧な語注が付いているところがお得。ただダブっているのは4編だけなので、両方持っていても損はない2024/06/26