内容説明
絵のように美しい兄妹、潤と茜。幼いふたりの胸底に芽ばえた“新しいママ”和歌子への小さな嫌悪が恐ろしい惨劇を招く表題作。牝の三毛猫と濃密に暮らす独身中年男の身近で起こる謎の連続完全殺人を描く「共犯関係」。都市の孤独と人の心の不可解さが、思いがけない殺意と狂気を呼びさます。サイコ・スリラー4編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
330
1988年から1989にかけて書かれた 小池真理子の短編が4つ収録されている。分類するならば、いずれもミステリーということになるだろうが、謎解きといった種類のそれではない。しかも、それぞれにリアリティという点で明らかな欠点を持っているのである。例えば表題作にしても、乳児を置いたまま出かけることも不自然だし、子どもたち二人の幼さと巧知さの共存もまたそうだ。その他にも数え上げればキリがない。本書は軽やかなタッチで描かれた、これらの作品の心理的な綾を楽しむべきものなのだろう。矛盾するようだが、ミステリー⇒ 2023/05/13
アッシュ姉
56
日常に潜む恐怖を描いた中短編4話。ちょっとした偶然や、ほんの僅かなずれから運命を狂わせていく。完全犯罪を目論み成功する者。犯罪を隠蔽しようと画策して失敗する者。躊躇なく罪悪感の欠片もなく、むしろ楽しんで追い詰めていく側に対し、自業自得とはいえ、次から次へと窮地に追い込まれる様は同情してしまうほどハラハラする。巧みな心理描写に鮮やかな結末。10数年ぶりに再読。安定の小池真理子作品でした。2014/11/27
たぬ
44
☆4 4年8か月ぶりの小池真理子。4編どれも面白かった。特に好きなのはまず表題作。子供って残忍だよね。人生経験がほぼないゆえありえない言動をしでかす。この話に限らず現実世界でも子供が天使なのは見た目だけだと常々思ってます。次いで「薔薇の木の下」。まさかあの時の貧血女がこんな形で関わってくるなんて思わなかったな。2022/08/15
毒兎真暗ミサ【副長】
28
小池真理子さんは初読。読みやすい文体に女性の色香がほんのり香るサスペンス?だ。綿矢りささんを初めて読んだ時は「あぁ、村上龍が好きなのね」と思ったが、今回は「あぁ、松本清張が好きなのね」と直感。男にスポイルされる作家はあまり得意じゃないけど、女性心理の変遷として見る分には良いのかもしれない。小池さんの小説の面白い所は、男性目線なのに内面が【女性的】であるところだ。周到で緻密なわりに意地悪な狐にすぐ脚をかけられる。ご姉妹でもいるのかもしれない。とまれ。食わず嫌いは直してみよう、と思わせてくれた作品である。2024/02/06
ぐうぐう
26
「日常に潜む恐怖と異常」、自身のミステリの主題を問われての小池真理子の答えだ。普段は潜んでいる異常が、偶然の積み重ねにより日常に軋みをもたらせる。顔を出した異常をめぐる恐怖がミステリとなる、そんな意味があるのだろう。1989年に刊行された『双面の天使』は、表題作を含む4本の短編が収録されたミステリだ。異常への対処が事件を、つまりミステリを生んでいるように一見思えるが、実はそうではない。異常を抑え込もうとすることで露呈する利己主義、独占欲、保身、そんな人間の本音こそが恐怖でありミステリを生むのだ。(つづく)2018/06/23