内容説明
街はずれにある古びた石造りのアパート「ホテル カクタス」。その三階の一角には帽子が、二階の一角にはきゅうりが、一階の一角には数字の2が住んでいました。三人はあるきっかけで友達になり、可笑しくてすこし哀しい日々が、穏やかに過ぎて行きました…。メルヘンのスタイルで「日常」を描き、生きることの本質をみつめた、不思議でせつない物語。画家・佐々木敦子との傑作コラボレーション。
著者等紹介
江国香織[エクニカオリ]
1964年、東京生。小説、童話、詩、エッセイ、翻訳など、幅広い分野で活躍。『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で第十五回山本周五郎賞、『号泣する準備はできていた』で第百三十回直木賞を受賞
佐々木敦子[ササキアツコ]
1963年宮崎県生まれ。1984年東京女子美術短期大学卒業。1986年渡仏。1991年パリ国立高等美術学校ボ・ザール卒業。以降、パリに拠点を置き、作品を発表する。パリ大蔵省ビクトール・ショケ賞第一席。アヴィニョン芸術展銀メダル。ル・サロン(フランス芸術家協会)銀メダル
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
393
肩の力が抜けた自由度の高いファンタジー。物語の場は、表題の「ホテル カクタス」。そういう名前のアパートである。登場するのは、いずれも擬人化された帽子、きゅうり、数字の2。この取り合わせも珍妙だし、3者のお付き合いのあり方も、それぞれに個を崩さない。とりたてて何かが起こるというほどではないが(そうはいってもいくつかのエピソードから構成されているのだが)、読み終わった頃には私たちはすっかり彼らと一体化しているといった仕掛け。なお、本書は佐々木敦子さん(画)とのコラボレーションによって生まれたもの。⇒2023/07/01
優希
95
ホテルカクタスという古いアパートの奇妙な住人たちの生活が愛おしくてたまりませんでした。帽子ときゅうりと数字の2が主人公という不思議な設定で、エッセイのようなファンタジーのような不思議な世界観が広がっていました。美しく穏やかに進む話と深まる3人の友情が自然体で、一緒にいるのが羨ましくなります。一緒にいる時間、あたりまえのような恋、そして自分の生活に戻っていくのが切なくもあり、美しくもありました。豊富な油絵で描かれた挿絵も素敵な世界観をより引き立てていると思います。2015/03/31
セウテス
90
佐々木敦子氏の絵を見て創られた物語なのだが、私は同じく絵を見て思い出した事がある。森本レオ氏や下條アトム氏ら四人の若者が、阿佐ヶ谷の古いアパートに集まって人生をなした「黄色い涙」というテレビドラマだ。本作は、ホテルカクタスという名前のアパートに、きゅうりと帽子と2の三人が住み、出会いから別れまでの人生模様を描いている。作者らしいのは、三人があだ名などではなく、そのものズバリである事だ。デビュー当時から何かに対する感じ方が、自分と同じだと思う事が多い作家さんだった。こんなメルヘンでも、日常的に納得している。2018/11/23
Hideto-S@仮想書店 月舟書房
87
ある街のはずれにある古いアパート。名前は『ホテルカクタス』。アパートなのに〈ホテル〉という名が冠されています。江國香織さんが描くメルヘンのスタイルはとても素敵でした。主人公は〈帽子〉〈きゅうり〉〈数字の2〉という変わった名前を持つ3人の男性。定住しないボヘミアンの〈帽子〉、アルバイトの給料を全額両親に渡しても困らないほど裕福な〈きゅうり〉、ホテルカクタスで初めて友達ができた〈2〉。人生という〈旅〉の途中の休憩所という意味では、確かに〈ホテル〉の物語なのだと思いました。佐々木敦子さんの挿し絵も美しい本です。2015/02/06
エドワード
87
古いアパート、その名はホテルカクタス。その、ファンタジックな三人の住人のお話。帽子。無常を知る、ウィスキーとジャズを愛するハードボイルド男。2。役場勤めの、割り切れないことの嫌いな男。酒は飲まず、クラシック音楽を好む。きゅうり。無類の運動好き男。南の畑の出身。ビールを飲む。音楽は特になし。そんな三人が何故か気が合う。夜ごと語り合い、競馬へ行き、旅をする。ホテルカクタスが取壊され、三人は別れ路を行く。いつか再会を願って。物語も素敵なうえ、何とも素晴らしい絵。ガウディの建築のような螺旋階段。取壊しは犯罪だな。2013/07/23