内容説明
台湾の古い街、台南の郊外にたたずむ広大な屋敷「安閑園」。緑豊かな庭園と季節の実りをもたらす果樹園や野菜畑。そして母たちが腕をふるう彩りあふれる日々の食卓の風景。1930年代の台湾で生まれ、この安閑園に育った著者が、子供時代の食の記憶を丹念に書き綴る。大家族のにぎわいと料理の音や匂いが鮮やかに立ちのぼり、人生の細部を愛することの歓びが心に響く。幻の名エッセイ、待望の復刊。
目次
宝石売りのおばあさん
父の誕生日
一族の絆
血液料理をご存知ですか
仏間のお供えもの
二人のお医者さん
内臓料理の話
南の国の結婚式
お正月のご馳走
恵おばのこと
大家族の台所
紅桃姑の精進料理
著者等紹介
辛永清[シンエイセイ]
1933年、台湾、台南市生まれ。武蔵野音楽大学別科卒。1955年、音楽専攻のため来日。その後、自宅で料理教室を開いたことをきっかけに、料理研究家として、NHK「きょうの料理」ほか料理番組や雑誌、講演等で活躍。2002年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
218
タイトルの安閑園は、著者の辛永清が少女時代を過ごした台南郊外の庭園、菜園のある豪邸の名。私は知らなかったのだが、著者は中華料理で有名な研究家、料理人であったらしい。およそ何でも食する中国料理だが、ことに日本料理との歴史や文化の違いを感じるのは内臓料理だろう。鶏や鳩の頭を箸でせせって脳を食べる、あるいは豚を一頭丸ごと食べてしまうなど。豚にいたっては肺まで料理してしまうのだ。これは、さすがに著者にとっても初めての経験だったらしいが。また、本書はお料理だけではなく、随所に台湾の奥深い文化がしのばれ、興味深い。2014/09/19
エドワード
28
料理研究家として知られる辛永清さんはもともとピアノ教師だった。台湾の壮大な屋敷、安閑園で過ごした少女時代の思い出。裕福な家庭らしい、ゆったりと流れる時間が感じられる。大勢の家族とすごす、父親の誕生日、結婚式、正月などの行事。昭和8年生まれだから、戦後の高度成長期。自然に覚えた料理を紹介するうちに日本で台湾料理が普及していく。身近なようで知らない中国料理。燕の巣や伊勢海老などの高級食材から街の屋台まで、その豊かな世界に触れられる。内臓や血液、脳みそまで珍味と言って食べる中国人はすごいな。2016/08/12
syaori
27
著者が少女時代を過ごした家、安閑園での生活を振り返った、食卓を中心とした家族の物語でした。お父様が台湾総督府の要職にも就いていたことがある実業家というお金持ちなので、たくさんの一族のほかに使用人もいる大家族で『紅楼夢』の賈家を近代に持ってきたらこんな感じかなと楽しく読みました。父親の誕生日、新年のお祝い、姉の結婚式の日のほか様々な家族団欒の場面とともに紹介される料理やエピソードはどれも素敵で、著者の安閑園を取り巻く人々への郷愁に満ちた暖かい視線もあって、ゆったりとした贅沢な時間を過ごした気分になりました。2016/05/20
としちゃん
26
著者は料理研究家。父上は日本の植民地時代、台湾総督府の要職にあった方。安閑園は幼少時代に過ごした台南市郊外の屋敷の名前で、そこでの裕福な暮らしを書いたのがこの本。作る量も食べる量も半端ないけど、手のかけ方、使う食材、食べ物に対するこだわり、ことごとくすごい!豚は脳みそから、血液、内臓、皮まで全て料理し尽くし、おいしく食べる。人の幸せというのは、突き詰めれば、みんな仲良く料理を楽しみ、せかせかしないで暮らすことなのね。ここまでお金持ちでなくても、おいしい料理でお腹が満たされたら、みんなニコニコ平和だわぁ。2016/05/08
キムチ
26
皆さんの紹介から、興を惹かれ 図書館予約で。余りの装丁の立派な事でびっくりしてしまう。育ちと頭の良さを感じさせるエッセーもさることながら、料理の一つ一つが案外作れそうな感じを与えてくれる。つい、その気になって、身近な素材となんちゃってクッキングで数点「似ていて非なる」料理を作ってみた。相方がほめてくれたことでチャンチャン。文章といくつかのっている写真から古き良き台南の香りが立ち込めてくる・・何回もめくりながらあたりの気配は昔見た「ジョイラッククラブ」のワンシーン。2014/05/30