内容説明
児童福祉施設の保育士だった美佐江が、自宅アパートで25歳年下の夫と焼死した。その背景に、女の姿が浮かび上がる。盗み、殺し、火をつける「アイ子」。彼女の目的は何なのか。繰り返される悪行の数々。次第に明らかにされる過去。救いようのない怒りと憎しみとにあふれた女は、どこからやって来たのか。邪悪で残酷な女の生を、痛快なまでに描き切った問題作。
著者等紹介
桐野夏生[キリノナツオ]
1951年金沢市生まれ。成蹊大学卒業。93年『顔に降りかかる雨』で第39回江戸川乱歩賞受賞。98年『OUT』で第51回日本推理作家協会賞、99年『柔らかな頬』で第121回直木賞、2003年『グロテスク』で第31回泉鏡花文学賞、04年に『残虐記』で第17回柴田錬三郎賞受賞。同年に『OUT』がエドガー賞候補となる。05年『魂萌え!』で第5回婦人公論文芸賞受賞。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
259
主人公に感情移入することがきわめて困難な小説。同情の余地は十分にあるにもかかわらず、そこに共感の余地がないのである。作家自身がそれだけ突き放して書いているということだろう。ただ、「あはれ」ではある。そう思う一方で、これほどに自分とは隔たった登場人物たちに、ある種どうしようもない違和感を覚える。ここにあるのは変則的ではあるものの、ある種の自己相対化なのかもしれない。自分は絶対にそちら側には立てないという逆説的なそれであるが。それにしても、現代社会にあって女であることは何と理不尽であることか。2017/09/05
優希
104
怖いの一言に尽きますね。繰り返される悪行の数々と明らかにされていく過去。生活環境でここまで憎しみを抱えることができるのかと思わずにはいられません。同情はしても共感はできず、違和感すら感じます。邪悪で残酷な女性をとことん描ききってるなと思いました。2018/01/07
miyumiyu
94
産み捨てられ、誰からも愛されずに売春宿と施設で育ったアイ子。邪魔者は容赦なく殺していく残虐性は、悪意と嫉妬に満ちた生い立ちと忌まわしいDNAの故か。はっきり言って気分良くない、すごく気持ち悪い。でも止まらない!ただ嫌な気持ちしかないのではなく、切なくてやるせない。この子にも幸せになる権利があったのにな…。桐野作品の中でも、かなり中毒性のある作品だと思う。読後に見る表紙の写真が、切なくてやりきれない。長編では「OUT」と同じぐらい引き込まれる。ほぼ一気読みだった。2018/08/31
アッシュ姉
86
母親から産み捨てられ、誰からも愛されずに虐げられて育ったアイ子。欲しいものは盗み、消しゴム感覚で人を殺し、火を放ち逃げる。倫理観が著しく欠如しており、平然と悪行の数々を繰り返す生き方は、フジコやリカに次ぐ強烈な印象で異常性が突き抜けている。比較してしまうと落としどころがぼやけるようで、純粋に桐野さんの世界観を堪能した方が楽しめるのかもしれない。読み終わって、タイトルが悲しく響いた。2016/10/14
nobby
76
なかなかの読み心地・後味の悪さ。非道極まりなく続けられる殺人という邪悪も、至って普通な様子に潜んでいるのかもしれない…読み終わってみると物語がグチャグチャと進んでいき、最後の方でなんか合わさった感は否めないが、ページめくる手だけは止まらなかった。そこが作者ならではの筆力。アイ子が最後まで追い求め続けた「母さん」その偶像としていた朽ち果てた白い靴。明かされた真実は許される理由にはならないが『I’m sorry, mama.』そのタイトル、そして表紙イラストがせつない。2015/02/19