出版社内容情報
内容説明
「かがわまほせんせいのえがだいすきです。ぼくのことをすきになってくださいね」佑樹は五歳の時、大好きだった絵本の作者に手紙を書き、彼女から来た返信を今もまだ大切にとっていた。父のいない子として生まれた佑樹は、不思議な懐の深さを持つ魅力的な少年に成長していた。人を想い慈しむ気持ちが、絡まった過去の秘密をゆっくりと溶かす。命と命の邂逅へと繋がる、美しい運命の糸の物語。
著者等紹介
宮本輝[ミヤモトテル]
1947年3月6日兵庫県生まれ。77年『泥の河』で第13回太宰治賞を受賞しデビュー。78年『螢川』で第78回芥川龍之介賞、87年『優駿』で第21回吉川英治文学賞を受賞。2004年『約束の冬』で第54回芸術選奨文部科学大臣賞文学部門を、10年『骸骨ビルの庭』で第13回司馬遼太郎賞受賞。また同年、紫綬褒章を受章(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
488
『流転の海』の完結からこの作品、筆者は作家生活の大団円に入っているのかなという印象。心に残ったフレーズや出来事をすべて読者に伝えておきたい、というような。あたたかい物語の中で、それぞれの登場人物が助け合い、前へ進んでいく様は、わたしたちにも元気を与えてくれる。欲をいえば、各人・各家庭の背景というか事情に首を突っ込みすぎというか。結果それらが薄まってしまったような。分厚い文庫分冊でなくとも、厚めの一冊でもう少しスッキリ読みたかった。筆者を読むとしたら、今後は初期の作品を再読してみたい。2022/01/16
ykmmr (^_^)
148
ある意味、謎の死を遂げたオトコの姿がはっきりしていくのと同時に、それを取り囲む登場人物たちも、自分たちの姿と向き合い、変わっていく。千春は故郷で浄化され、自分を取り戻し、思春期に色々な事を良くも悪くも吸収する従弟、佑樹を支える。その母の海歩子は息子の出生の秘密を打ち明けるか否かに悩む。真帆は自分の『父像』とあまりにもかけ離れた当人の姿に愕然とするが、父が婿である事への理解を示し、父の事を受け入れる母を支え、顔を知らない腹違いの弟を想像する。そんな人物たち全てに向き合い、誠実に対応する平岩社長。2022/04/22
エドワード
62
北陸三県は幸福度が高い。豊かな自然、産業と雇用、保育や医療の充実などが指標となるからだ。しかし富山県出身の妻に言わせると「文化が無い」とバッサリだ。文化は人により、年齢層により好みが異なる。若者は東京や京都に憧れる。やはりバランスなんだろうね。いつになく人間関係の広がった今回の物語、意外な血縁や偶然の友情等で結ばれた人々が、東京から、京都から富山へ集まっていく様が見事である。多分にいい人間ばかりのきらいはあるが、これからの日本の理想の姿を示唆するようである。赤毛のアンを愛読する平岩爺さんが宮本さんだネ。2018/10/01
康功
57
人と人の不思議な縁が、自分の運命を変えて行くことがある。作品の様に、思いやりのある人には思いやりのある人が繋がっていく、というのは真理かもしれない。宮本輝は、人生とは自分の心が一番自由でいられる場所を探し続ける旅なのだと言いたかったのかも、、、私も、テンガロンハットを被り、晴れやかな日に立山連峰を望みながら、ウォーキングをし、心が自由でいられる街、この富山県で生きていきたい。2018/02/25
chikara
53
心根の綺麗な人達が自然と繋がっていく命の物語。富山の雄大な自然の描写や登場人物達の己との葛藤、そして人を思いやる描写が全て美しい!生意気な感想を申しあげると、宮本輝氏の作品は年を経るごとに濾過されている気が致します。まるで富山を流れる豊かな清流のように心を洗い流してくれます。再読決定の良書でした。2018/02/06