出版社内容情報
婚約者がいながら家出し、妊娠して実家へ戻った母。嫁ぎ先で病気になり、離縁した叔母…。柳島家には、果敢に「世間」に挑んでは敗北してきた歴史があった。家族それぞれに流れる時間を豊かに描く物語。(解説/野崎 歓)
内容説明
三世代が親密に暮す柳島家。美しく幸福な家族に見える彼らにはしかし、果敢に「世間」に挑んで敗北してきた歴史があった。母の菊乃には婚約者がいながら家出し、妊娠して実家へ戻った過去が。叔母の百合には嫁ぎ先で病気になり、離縁した経験がある。そして、健やかに成長する子供たちにもまた、変化がおとずれ―。家族それぞれに流れる時間を細やかに豊かに描いた、三世代百年にわたる愛の物語。
著者等紹介
江國香織[エクニカオリ]
1964年東京都生まれ。小説、童話、詩、エッセイ、翻訳など、幅広い分野で活躍している。1992年『こうばしい日々』で第7回坪田譲治文学賞、同年『きらきらひかる』で第2回紫式部文学賞、2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で第15回山本周五郎賞、04年『号泣する準備はできていた』で第130回直木賞、07年『がらくた』で第14回島清恋愛文学賞、10年『真昼なのに昏い部屋』で第5回中央公論文芸賞、12年「犬とハモニカ」で第38回川端康成文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
504
読み進めるのにブレーキかかりまくりの上巻と違い、人物像や背景が頭に入っていたせいか下巻は一気だった。それぞれが抱えた人生の翳のようなものを読めるのが、とても江國さんらしく。神谷町、学生時代の1年間に某企業のインターンのような形で通った街。物語はあの懐かしい街にある洋館に始まり、終わる。ラストの家族風景に、不思議と寂しさは感じられない。わたしにはある意味、羨ましい人生の後半だなぁと感じ入ったことである。2022/02/05
ヴェネツィア
339
上巻が図書室で始まり、この下巻が図書室で閉じる。しみじみと心に響く小説だった。やはり既読の江國香織の作品の中では、今のところベストである。『斜陽』(太宰治)とは違ったけれど、それでも最終場面に残ったのは、女たちが3人だけ。後は、みんな亡くなったり、もしくはこの家を離れていってしまった。幽かな淋しさは残るが、優雅は退廃の気を帯びて、一層に優雅である。もはやあんな時間はかえって来ない。そのことがまたことさらに貴重なものであった時間と空間とをそこに閉じ込めていたのである。最後の一文は、読者にもまた⇒2025/01/24
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
165
素敵なお屋敷と歪だけれど親密な家族が、時代を行きつ戻りつしながら徐々に解体を迎えていく。静かなる終焉といずれ来る完全なる解体の予感がもの悲しく、しかし時代に溶けゆくようで納得もする。静かな筆致の中で、たまにはっとしたり共感したりしてしまう言葉に出逢えるのは江國さんの世界の魅力のひとつ。なんだか近しく感じてしまうのだ。「歴史は過去ではないのよ。いまも私たちは歴史のただなかにいるの」「心配している状態よりも、心配事が現実に起きたあとの方がやすらかだと感じる」しかしお家に図書室があるのはかえすがえすも羨ましい。2018/12/24
aoringo
104
下巻では成長した子供たち、大人たちの事情、そして老いていく家族たちについてじっくりと描かれている。とても複雑な家庭に綻びが出てきて読んでいて少し苦しかった。でも一つ一つを取り上げてみるとそれぞれの人の心情が理解できるし、また逆の立場の人の胸の内にも感情移入したりでお腹いっぱいになった。終盤へと向かっていく一族の壮大な物語には思わずため息がもれたが、それにしても最後の最後でおばあさんの秘密にはびっくりしたなあ。そして平凡な人生に少しほっとする自分。どっぷり堪能できました。しばらくはこの余韻に浸りたいです。2022/03/11
きりこ
94
家族間の愛情や慈しみが描かれ、抱擁を交わし食卓で語らう習慣が素敵です。それぞれの価値感によって自由に生きようとする人々、それを寛容に受け止める家族たち。幸せに満ちた家庭も時を経て変わっていき、楽園のような家庭から巣立っていく望や光一。でも皆で賑やかに楽しく過ごした家は懐かしい場所として記憶されていくのでしょう。絹さんの思い出の章が驚愕。3世代の家族の歴史がこれでしっくり繋がりました。江國さんの著書に多く描かれている気高さというものが結晶したような秀逸な作品でした。 2015/01/14