出版社内容情報
変死などの起こった物件に一ヶ月だけ住み、また次に移るという奇妙な仕事をするりさ子。心に傷を持ち身一つで東京を転々とする彼女は、人の温かさに触れて少しずつ変わっていく。(解説/北上次郎)
内容説明
内田りさ子、32歳。訳あって夫と離婚し、戻る家をなくした彼女は、都内の事故物件を一か月ごとに転々とするという、一風変わった仕事を始める。人付き合いを煩わしく思い、孤独で無気力な日々を過ごすりさ子だったが、身一つで移り住んだ先々で出会う人人とのやりとりが、次第に彼女の心を溶かしてゆく―。東京の賃貸物件をロンダリング“浄化”する女性の、心温まる人生再生の物語。
著者等紹介
原田ひ香[ハラダヒカ]
1970年神奈川県生まれ。2006年「リトルプリンセス2号」でNHK創作ラジオドラマ大賞受賞。07年「はじまらないティータイム」ですばる文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
338
『死んだ人の部屋に住むのが』仕事というりさ子の『ロンダリング』の日々が描かれるこの作品。”事故物件”という、決してなくならないそんな部屋に、ただ住むことを一つの”お仕事小説”として描いたこの作品。”事故物件”では何かが起こるという視点ではなく、りさ子の生き様に光を当てていくこの作品。とても興味深い話題が極めて読みやすい物語の中にまさかの重みをもって描かれていくこの作品。原田さんの作品らしく美味しそうな食べ物がそこかしこに登場する中に、“お仕事小説”を得意とされる原田さんの目の付け所の鋭さも光る作品でした。2022/09/19
ノンケ女医長
213
ロンダリングは、洗浄するという意味。家賃が104万円もする、タワーマンション44階の部屋から見える都心の眺望に、落ち着かなくなる内田りさ子。心身のバランスが崩れていることにも気づかないくらいの、苦しさに満ち満ちた仕事を選んだきっかけを感じ取り、りさ子への感情移入が抑えられなかった。日々の過ごし方は、自傷行為に極めて近いのかもしれない。これ以上、自分自身を責め続けなくても済むのなら、誰かの役に立つ仕事をしたいという人には、共感できる点がかなり多くあるのでは。著者ならではの、細やかな社会の着眼点に溢れていた。2023/01/31
エドワード
184
マンション等の賃貸物件で死人が出た時、そこに短期間住んでほとぼりを覚ます間借りがロンダリングだ。ある事情で住処を失ったりさ子は住むだけで収入になるこの仕事を始める。いつもにこやかに愛想よく、でも深入りせず、目立たないように、がこの仕事の極意だ。彼女は雇い主の指示で、広い東京を次々と移り住む。ある時、谷中の木造アパートへ入った彼女は、ふとしたことから地元の食堂で働き始め、本意ならずも人の情に触れていく。深入りしてはいけない、と心は揺れる。人は一人で生きていくのか、そうでないのか、考えさせられる深い物語だ。2014/11/20
dr2006
153
「ロンダリング」っていったいなんだろうと思いながら手に取った。直訳は「浄化」だけど、ここではワケアリ賃貸不動産を浄化する話だ。前の住人に何らかの問題がありワケアリ物件となった場合、貸主は次の借主に説明をする必要がある。だが、その次の借主には説明の必要がない。つまりワケアリ物件を納得の上でワンクッションを置く為に住む仕事がロンダリングだ。その題材の斬新さに興味がありワクワクしていたのだが、心情描写も丁寧簡潔で好きだ。気づいたら一気読みだった。初読みの原田さん、あまり感想登録数が少ないがお薦め。2015/04/08
fukumasagami
147
「そうですか。でも、僕らも皆、そうだと思う。今の社会で、他人になにかを求めることなんて、なかなかできないですよ」と言いかけて、亮は、あ、と思い出した。 「ああ、違いますね。りさ子さんにうちで働くことを強要した。すいません」 「……いいえ」 「僕らは人にいろいろ求めて、期待して、よっかかって、甘えて……なんとか生きてる。でも、そういうのが、嫌なんでしょうね、りさ子さんは」 りさ子は目をそらせた。天井の電灯に小さな夏の虫が、袖にされながらどうにも離れられない相手を恋うように飛び回っていた。2016/12/23
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