出版社内容情報
関東大震災発生。横浜刑務所は囚人たちを24時間限定で“解放"することに決めた。彼らの戻りを信じて。ノンフィクションノベル。
内容説明
1923年9月1日、巨大な地震が関東を襲った。横浜刑務所の典獄・椎名通蔵はそのとき、倒壊する建物に身を置く囚人たちの安全のため、世界初の完全開放処遇を決断した。条件は一つ、24時間以内に再び戻ってくること―。彼らの帰りを信じる看守とそれに応える柿色の服を纏う者たちの厚い信頼関係と、未曽有の災害に直面してなお人間らしさを貫いた人びとの姿を描く感動のノンフィクションノベル。
目次
第1章 獄塀倒壊・獄舎炎上
第2章 二十四時間内ニ出頭ス可シ
第3章 世界初の完全開放処遇
第4章 所長の条件 徳孤ならず必ず隣あり
著者等紹介
坂本敏夫[サカモトトシオ]
1947年熊本生まれ。作家。19歳で刑務官となって以降、日本全国の刑務所に勤める。94年に退職後、本格的に執筆業に入る(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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kinkin
105
関東大震災が起きたとき、横浜刑務所ではその復旧を急ぐとともに囚人たちの安全のため世界初の完全開放処遇を決意。条件は24時間以内に刑務所の戻ること。解きはなれた彼らの行動や彼らに降りかかる様々な事件、囚人ということへの蔑視、また刑務所所長や看守たちの信頼など題名通りメロスの話だと感じた。ノンフィクションというものの一部は脚色も入っていると思うがノンフィクションとはそういうものだと割り切っし手読んだ。この話が吉村昭氏だったらどのような展開になったのだろうと感じた。著者は元刑務官とのこと。図書館本2022/06/03
Willie the Wildcat
74
官僚主義の中での人道主義。政治的事情も踏まえた先輩・後輩の”決断”は、時勢も踏まえると否定もできまい。綺麗ゴトではなく、各自の苦悩を通した泥臭い1つ1つの変化の過程。椎名所長の胆力と、それに応える人たちの心意気に、グッとくる件が多々。加えて、巻末の『解説』で知る法務省vs.椎名所長。氏の覚悟を感じる。掲載された実際の写真の数々も、当時の物騒な空気を少なからず読み取らせてくれる。有事に見せる言動に垣間見る本質。少しでもスジを体現できる人間でありたいと感じさせられました。2021/10/22
はれひめ
36
関東大震災時の漢のノンフィクション。『典獄と934人のメロス』文庫化。大阪の目利き書店が惚れ込んでコツコツと売り続けていたという職人気質の感動物語。先人たちに学ぶこと多々あり。性善説を信じてみようと思わせられた。どの場面も容易に連想できるので多くの人に読んでもらいたい。2021/07/25
大福
27
関東大震災直後に横浜刑務所の囚人たちが24時間に限り解放されることになった。家族の安否を確認したり、被災した人々に協力するためという名目で。果たして彼等は刑務所長椎名通蔵の信頼に応えることが出来るのか? 証言をもとに書かれた実話に基づく物語とのこと。本当にこれが実話なら「走れメロス」など目ではないほどの感動である。そしてこんな話が埋もれていた理由も最後まで読むと分かるのである。現代日本人が学ぶべきことがいっぱいだった!思った以上に小説で読みやすかった。2021/07/13
駄目男
22
江戸の昔から大火災などがあった場合は、牢獄に繋がれている囚人を三日間だったか、解き放つなんて聞いたことがあったが、関東大震災のおり横浜刑務所の典獄・椎名通蔵は、倒壊する建物に身を置く囚人たちの安全のため、世界初の完全開放処遇を決断した。条件は24時間以内に再び戻ってくること。彼らの帰りを信じる看守とそれに応える柿色の服を纏う者たちの厚い信頼関係を描いた作品。椎名通蔵の人柄が脱走者を出さず「義を見てせざるは勇無きなり」といわぬばかりに、その後の刑務所復興などに大いに役立った彼ら囚人の人情を描いている。2023/06/21