内容説明
広重の有名な『名所江戸百景』、略して『江戸百』。絵葉書などで今でも大人気の、ご存知江戸浮世絵風景画のシリーズ。だが、実はこれは、単なる名所の紹介ではなく、ある意図を巧妙に隠し入れたジャーナリスティックな連作だったのだ。本書があぶり出すのは、安政の大地震から復興する江戸庶民の喜怒哀楽、そして安政の大獄や明治維新へとつながっていく江戸末期の社会の姿。豊富な資料を基に新説を打ち出した、著者一世一代の作。巻末には本邦初、制作月順の絵索引で全一二〇点を一挙掲載。
目次
1 『江戸百』とは(『江戸百』とは;薙髪の意味 ほか)
2 安政江戸地震と広重を取り巻く人々(黒船来航で「世上物騒」;「世上物騒」で不景気 ほか)
3 謎解きのひな型(残暑の雪はなぜ?「浅草金龍山」;場所性と場所の感覚 ほか)
4 謎解き(絵の制作とできごと;なぜ巻頭に?「日本橋雪晴」 ほか)
5 あらためて『江戸百』とは(なにげなさの裏にひそむ謎;なにげない風景の謎 ほか)
著者等紹介
原信田実[ハラシダミノル]
1947年東京都中央区生まれ。浮世絵研究家、翻訳家。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。国際浮世絵学会会員。2007年1月没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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TakaUP48
61
広重の有名な『江戸百』。名所紹介だけではなく、ある意図を巧妙に隠し入れた連作だったという。「浅草金龍山」地震で曲がった五重塔を真っ直ぐに。「大はしあたけの夕立」高度な絵師・彫師・摺師の技が結集。雨脚を直線で彫り、黒雲を高度な摺り技法で表現!「浅草田圃酉の町詣」格子から覗く白猫は、遊女?「両国花火」地震後初の花火…だが、花火の華ではなく残り火を描いているのが印象的。「下谷広小路」伊藤松坂屋の暖簾が眼に。大売り出し中?「亀戸梅屋舗」地震で潰れた清香庵の梅屋敷。ゴッホで有名。幕府への目眩ましなど、奥が技が深い!2025/03/20
つーこ
34
広重の江戸百景に謎が?解く必要あります?そんな気持ちで読み始めたのだけど、意外にも奥が深くてびっくり!地震による災害で混乱に陥った江戸の復興を願ったり祝ったり懐かしんだり、そんな背景がこの絵達にあったとは。違った見方をすると、こんなにまた興味深くなるなんて、ほんとに驚きです。2013/03/14
つーこ
28
『謎』というか、江戸時代の文化や仕組みの説明がとても面白い。当時は広告やポスター的な気持ちで描かれたものが、現代の私たちにはその時代を覗き込んだような面白さを感じる。タイムスリップしたら・・と楽しく想像せずにはいられない。2020/04/04
ともこ
25
広重が好きで「謎解き」という言葉に惹かれて購入し積読となっていた。時代背景を考察し、思わぬところまで派生しているのは一興かもしれない。しかし、最近読んだ梶よう子著「広重ぶるう」の方がおもしろく、「赤瀬川原平が選ぶ広重ベスト百景」の方が広重愛を共有してゆったりと楽しむことができた。理屈ではなく、広重が描く江戸の風景や人々の中に郷愁を感じ、ほっこりと浸りたいのだな私は、と思った。巻末、「江戸百」すべての絵が創作順に網羅してあるのは素晴らしい。2025/05/24
三平
13
歌川広重の傑作「名所江戸百景」。 制作時期から考えて、それぞれの絵には隠された「コード」が描かれていたのでは、という仮説から読み解きを行った本。 正直、難しく考えすぎだろうと印象なのだが、カラーでこの傑作シリーズを一揃い見れるのはお得。 古今東西の絵画で風景の切り取りの面白さを最も魅せてくれる作品群なのだから。 小難しいことはいいんだよ!と頭空っぽにしても楽しめるのがこの「江戸名所百景」の魅力。個人的には障子の端から着物の裾がチラ見しているのが何とも良い「月の岬」が一番。良さを再発見。2017/09/14