内容説明
交通事故や医療事故、あるいは自然災害が頻発しているが、元凶は車や劇薬なのか、人なのか、あるいはシステムなのだろうか。われわれの安全を脅かすものは、「安全」の名のもとに人間が作り上げた科学的人工物、社会的構築物である場合が多くなっている。また現代のような文明の高度に発達した社会では、心の病気、自分が生きている社会との不適合に悩む人の割合も増えてきている。これまで定量的に扱えないということで無視されることの多かった「不安」や「安心」といった問題に目を向けなければいけない時代になってきたのだ。
目次
序論 「安全学」の試み
第1章 交通と安全―事故の「責任追及」と「原因究明」
第2章 医療と安全―インシデント情報の開示と事故情報
第3章 原子力と安全―過ちに学ぶ「安全文化」の確立
第4章 安全の設計―リスクの認知とリスク・マネジメント
第5章 安全の戦略―ヒューマン・エラーに対する安全戦略
著者等紹介
村上陽一郎[ムラカミヨウイチロウ]
1936年東京生まれ。国際基督教大学大学院教授。東京大学名誉教授。専門は科学史、科学哲学。東京大学教養学部卒、同大学院人文科学研究科博士課程修了。東京大学先端科学技術研究センター長などを歴任
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感想・レビュー
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shiorist
6
自分はミスをしない人間であると思っているヤツは神様かバカで、ミスをしたことを恥じたりミスした人間を責たりするようなヤツは未開人で、人間の想像力には限界があってミスがそれを補ってくれる、ってゆーリスクマネージメントの要点がまとめられててよい本。2010/11/24
tolucky1962
5
原発事故以来、更に注目を集める問題。全体論の間に交通・医療・原子力の3章を設けている。村上さんの本なので安心して読める。ヒューマンエラー、リスク管理、開示・コミュニケーション、一般人の参加、組織の隠蔽体質。よく言われてきていることだが、この分野を率先してまとめてきた著者の言葉だけに重みがある。ただし、本書は04年に書かれた本なので、原発事故後村上さんの考えがどう変わったかも読んでみたい。2015/03/15
やす
4
安全はなんとかなっても、安心は難しい。 大震災前に書かれており、非常に示唆に富む本だと思う。2023/05/09
がんぞ
2
1999年、東海村JCO臨界事故(2名死亡、1名重症、667名被爆)の反省が「マニュアル手順を勝手に簡略化した、クリティカル・マスを知らなかったから」だけではどうかと思う。「原子力関係には試行錯誤は許されない」「マニュアル作成は、人間工学的に実行可能か検討するべき」原始の火とちがって“燃え尽き”ない放射能の非直感的脅威。チェルノブイリ事故については「黒鉛炉は事故が起こった場合、正のフィールドバックが止められない」とするのみ。原子炉はニンゲンの原始的労働によってしか維持管理できない、要員に体内被曝の危険…2017/11/12
aki
1
「安全」が満たされても「安心」ではない。先進国は安全であるけれども安心ではなく、アフリカが精神疾患率は最も低い…交通事故は確率が高いけれど問題にはなりにくいが、航空機事故や原子力事故は死傷数に比して遥かに大きな注目に集める。2004年の本で、非常に今後どう発展するか楽しみな本です。著者のその後の活動をフォローしてみたいと思いました。2023/05/28