内容説明
自由と民主主義の国アメリカにも、消すことのできない歴史上の汚点があった。「人種差別」である。黒人差別は有名だが、それにひけをとらぬ規模と陰湿さで行われたのがユダヤ人差別であった。ユダヤ人はなぜ差別されたのか。そしてそれは、どんな悲劇を伴ったのか。反ユダヤ主義の成り立ちと、果敢に差別と闘った人々の想いを、様々な具体的事件を例に取り上げながら説き起こす。知られざるアメリカの陰の歴史が、いま甦る。
目次
プロローグ 自由と民主主義の国の隠された顔
第1章 ユダヤ人青年実業家レオ・フランクのリンチ殺害事件―一九一三年から一五年のアトランタ
第2章 大都市ゲットーでの反ユダヤ暴動―首席ラビ、ジェイコブ・ジョセフの葬列を襲ったアイルランド系移民労働者たち
第3章 自動車王ヘンリー・フォードの汚点―その七年間にもわたる反ユダヤ・キャンペーン
第4章 甦る儀式殺人告発―スモールタウン・マシーナで起きた不吉な事件
第5章 閉ざされた象牙の塔―高等教育機関の入学選抜時におけるユダヤ人排斥
第6章 公民権闘争に隠されたもうひとつの闘い―その陰で頻発したユダヤ教会堂爆破事件
エピローグ 反ユダヤ主義は死なず
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
真琴
8
ミュージカル「パレード」のもととなっている「レオ・フランク事件」について知りたくて読みました。 70年も経ち、彼の冤罪が証明されましたが、政治的な取引、住民の怒りの矛先のために、命を落としたのは、彼だけではないかもしれません。2021/02/05
影実
2
ユダヤ人に対するリンチ殺人事件、警察が加担した反ユダヤ暴動、自動車王ヘンリー・フォードによる大規模な反ユダヤ人キャンペーン、大学入学への制限など実例を挙げてアメリカでのユダヤ人差別を解説した作品。経済的圧迫、人口庄など、様々な要因でアメリカでのユダヤ人差別が行われてきたことがよくわかる。また、公民権運動においてアメリカ北部のユダヤ人たちが黒人側に立ち多大な援助をしていたとは知らなかった。ヘンリー・フォードが熱烈な反ユダヤ主義でヒトラーに支援をしていたらしいというのも驚きでした。2017/11/17
あくび虫
2
とにかく明瞭な本。話の進め方が簡潔で、「どうして?」と思ったことが即座に続くようになっています。とても分かりやすくて、考えさせられます。不寛容であることは、無知であることなのかも、とか。知ってしまえば、簡単には否定できなくなるのが人間ですし。ぎゅうぎゅう詰めのアメリカ社会での抑圧が、そういう余裕を失わせたのでしょうか。ーー何にしても、黒人だとかユダヤ人だとかカテゴライズしなければいけない時点で、どうしようもない感がありますが。人間をなにかの集団として扱うことは、聞く耳も話す言葉も奪うことに思えます。2017/05/27
じろう
1
差別されてきた黒人がいたせいか白人の一種と捉えられてヨーロッパ程は迫害が少なかったように思う。黒人とユダヤ人の共闘も見られた。しかし現代のBLM運動の中、黒人によるアジア人暴行事件が起きているのを見ても差別という問題の奥深さ、解決の困難さはうかがい知れる。2021/04/02
静かな生活
1
3.5◼︎ユダヤ人問題はその影響力からして、今後対峙を迫られるアイデンティ危機に関して世界で最もポピュラーな問題系のひとつになるだろう。黒人といった隣接するマイノリティ集団との緊張関係にしても、近年の綿野恵太によるシティズンシップ問題を思い起こす。まあ良くも悪くも「資料」という感じ。2020/01/12