出版社内容情報
1973年に書き下ろし長篇小説として出版され、その年の野間文芸賞受賞作となった『洪水はわが魂に及び』。このとき作者・大江健三郎は三十八歳の若さだった。
当時、世界を覆う核兵器の恐怖や環境破壊の進行、連合赤軍事件に代表される過激な左翼思想の行き詰まり……といった、戦後の高度経済成長が陰りを見せるとともに様々な矛盾が露呈しはじめる時代だった。
しかし、この『洪水はわが魂に及び』は言うまでもなく、実際に起きた出来事をもとに構想された作品ではない。
知的障害を持つ男児・ジンと「核避難所」(シェルター)で隠遁生活を送る男・大木勇魚に「自由航海団」を名乗る若者のグループが近づく。この若者たちはありとあらゆるカタストロフを想定して恐れつつ、一方でそれとともに自分たちも滅ぶことを求めるという、矛盾をはらむ集団行動をつづけている。
やがて勇魚は「自由航海団」の若者たちに合流し、とともに「核避難所」に立てこもる。
そして、圧倒的なまでに暴力と祈りの入り混じったラストシーンに至る――
【目次】
第一章 核避難所
第二章 貝殻からはみだす
第三章 見張りと威嚇
第四章 対決する・対決させられる
第五章 「鯨の木」
第六章 あらためて「鯨の木」について
第七章 「ボオイ」抵抗す
第八章 「縮む男」
第九章 大木勇魚の「告白」
第十章 相互教育
第十一章 自己訓練としての犯罪
第十二章 軍事行動を舞台稽古する
第十三章 「縮む男」の審判
第十四章 「鯨の木」の下で
第十五章 逃亡者・追跡者・残留者
第十六章 性的な微光に向かって(一)
第十七章 性的な微光に向かって(二)
第十八章 性的な微光に向かって(三)
第十九章 鯨の腹の中より(一)
第二十章 鯨の腹の中より(二)
第二十一章 鯨の腹の中より(三)
第二十二章 大水ながれきたりて
我がたましひにまで
およべり
解説
エッセイ
内容説明
核避難所を備えた住宅に知的障害児の息子ジンと二人で暮らす大木勇魚。静謐な生活は、「自由航海団」を名乗る若者グループに破られた。理想を掲げ闘争しつつ自ら破滅に向かおうとする集団に、勇魚とジンは合流する―作家の並外れた想像力により一九六〇年代末から七〇年代初頭に執筆された小説はやすやすと時代を追い抜いていた。二一世紀も四分の一を過ぎた今こそ読まれるべき傑作長篇!野間文芸賞受賞作。
著者等紹介
大江健三郎[オオエケンザブロウ]
1935・1・31~2023・3・3。小説家。愛媛県生まれ。東京大学文学部卒業。大学在学中の1957年、「奇妙な仕事」が文芸評論家平野謙に高く評価されたことを契機に「死者の奢り」など文芸誌で短篇小説を次々発表する。58年、「飼育」で芥川龍之介賞を受賞。海外での翻訳出版を通じ、小説の方法に自覚的であり日本文学を最先端で牽引する存在として世界的に認知され、94年、ノーベル文学賞受賞。また、戦後民主主義者を自認し、日本国憲法擁護や核兵器廃絶などへの立場は鮮明だった。主な作品に『個人的な体験』(新潮社文学賞)『万延元年のフットボール』(谷崎潤一郎賞)『洪水はわが魂に及び』(野間文芸賞)『「雨の木」を聴く女たち』(読売文学賞・小説賞)『新しい人よ眼ざめよ』(大佛次郎賞)『人生の親戚』(伊藤整文学賞)などがある。2026年、未発表小説2篇が発見・公表され、話題となった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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