出版社内容情報
遠く離れた場所と言葉が響きあう、記憶への旅。
ドイツでの暮らしに故郷仙台の風景を重ね、愛する文学世界と過去からの声に耳を澄ませる――。
デビュー作『貝に続く場所にて』で芥川賞を受賞した注目作家が、静謐にして豊饒な文章で綴る初めてのエッセイ集。
「河北新報」連載「記憶の素描」、「日本経済新聞」連載「美の十選」を収録。
内容説明
遠く離れた場所と言葉が響きあう、記憶への旅。ドイツでの暮らしに故郷仙台の風景を重ね、愛する文学世界と過去からの声に耳を澄ませる―。デビュー作『貝に続く場所にて』で芥川賞を受賞した注目作家が贈る、初めてのエッセイ集。「河北新報」「日本経済新聞」連載を収録。
目次
1 記憶の素描(人形の家の過去;空白の冬の色;形の読み落とし ほか)
2 透明なものたち―美の十選(ルーカス・クラーナハ(父)“ウェヌス”
サンドロ・ボッティチェリ“書物の聖母”
ヒエロニムス・ボス“快楽の園”(中央部分) ほか)
3 小説を巡り歩いて(眼差しという語り―ル・クレジオの神話性に包まれた子供たち;透明な二人称;きなり雪の書 ほか)
著者等紹介
石沢麻依[イシザワマイ]
1980年、宮城県生まれ。東北大学大学院文学研究科修士課程修了。現在ドイツ在住。2021年、「貝に続く場所にて」で第64回群像新人文学賞を受賞してデビュー。同作で第165回芥川賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
263
石沢麻衣の最初のエッセイ集(まだこの1冊のみだが)。3つの媒体に書かれたものからなっている。最初のⅠは河北新報に寄せられた掌編エッセイ集。この人のエッセイは一つ一つは短いのだが、そこには「世界」がある。エッセイでありながら、物語めいた趣きを持っているのである。2021年10月から2024年8月までのものなので、彼女がイエナに居を構えていた時のものだ。イエナはことのほかに冬の風情が似合うようで、それがしんしんと染み渡るように読者に伝わって来る。Ⅱは日本経済新聞に掲載された「透明なものたちー美の十選」。⇒2025/05/25
kaoru
65
石沢麻依さんのエッセイ集。ドイツに10年住んだ際の「記憶の素描」のⅠ、美術と小説に関するⅡ,Ⅲの3部にまとめられている。イェーナの旧市街に感じる東ドイツの断片。アイフェル火山群に感じる不安は東日本大震災を経験した彼女らしく、ハンブルグで目にしたフリードリヒの《氷海》に東北の海を重ね合わせる。仙台出身の彼女とドイツの風土には通じあうものがあるようだ。今日のガザの窮状につながる一文もある。「知っていることだけですべてを判断すれば最後に残るのは白と黒かと分け隔てる壁だけになる」。Ⅲでは人工的な光源に月を求めて→2025/08/01
こなな
61
かりそめの星巡りは、プラネタリウムのことだったのか。遠い空間と静寂の言葉、点を繋ぎ合わせた線に神話が形をまとわせ、天には星の物語があふれる。"嗅覚のノスタルジー、細い月が鋭く空に引っかかる夜、金属はとてもお喋りだ"文章から香り、色彩、音楽さえも感じられる。本の題名とともに著者名も文章の中にちりばめられていて読書欲をもかきたてられる。熟れた石榴の地図はなんだか強烈に感じた。収録作の多くが、著者の暮らすイェーナやゲッティンゲンからである。歯科医院でのチェス物語とか…非現実感が感じられ、かりそめの夜となった。2025/06/07
ゆのん
47
芥川賞作家のエッセイ。ドイツ在住という事で、日本以外に住んだ事の無い私は俄然興味が湧く。『ドイツについて殆ど知識は無いけど、どんな素敵な暮らしぶりが読めるだろう』とワクワク。その内容は『素敵!憧れる!』だけでは無い現実的な問題も静かな文体で描かれていて、海外移住が楽しいものだけではない事を知る。併せて仙台出身という事で地震の話もあり、生きて、生活していくのは何処であっても心身共に楽しいだけではない事に改めて気付かされる。特に興味深かったのは、文化の違いや言葉の解釈の違い、天候や町の風景。一度訪れてみたい。2025/01/06
もぐもぐ
46
石沢さんの小説が大好きなので、初エッセイ読むのをとても楽しみにしていました。小説と同様に土地に紐づく記憶、土地と人との結びつきが強く感じられ、エッセイだけど一つ一つの話が静かな物語のような雰囲気。石沢さんが住むドイツのイェーナといえばやはり思い浮かぶのはカール・ツァイス。そしてそこには東西ドイツの分断の歴史が色濃く滲む。戦争や石沢さんの故郷である東北の震災への想い、少しづつ丁寧に読ませていただきました。次の小説がたのしみになる素晴らしさでした。 #NetGalleyJP2024/11/29