出版社内容情報
「日本語の勝利」は著者が『星条旗の聞こえない部屋』で野間文芸新人賞受賞決定直後、世に問われた最初のエッセイ集。
日本語という言語や「新宿」という場所との関わり、文学との向き合いが様々な切り口で描かれており、興味深い。
それから4年半を経て2冊目のエッセイ集「アイデンティティーズ」が刊行される。そこでは日本とアメリカとの往還だけでなく、中国というもうひとつの大陸への探訪が始まったことが記される。そこで目にする中国人や中国語はこれまでになかった姿であり、読者の固定観念を揺るがす。
文学をそして人間の営みをつねに複眼的に捉え、生き生きとした日本語で描写する著者、リービ英雄のエッセイ群は東西冷戦後の世界の枠組みがさらに大きな変化を生じ始めていると見られる2020年代の今こそ、深く受け取ることのできる貴重な文学の表現なのである。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
33
透明な印象を受ける。クセがないと言うべきか。言い換えれば本書に収められたエッセイの数々はリービがこれまで読者であり1人の外国人として日本文学・日本語を学び、その過程で新宿で暮らし中上健次を筆頭として数々の優れた文学者と交流を重ねてきたその体験を血や肉として(つまり理屈以前に「肉体的」「生理的」に)鍛えてきた感受性にたしかに裏打ちされたものと映った。だからこそここにはいかなる意味における「はったり」「きれいごと」もなく、いまなおこちらに訴えかける鮮烈さを備えている。イノセントでありつつもトゲを秘めた集大成だ2024/07/13
Maumim
2
著者の日本文学への知識が深く広範すぎて、ついていけない。「日本文学者」なのだなあ。新宿とマンハッタン。合衆国と日本と韓国。80〜90年代に書かれたものなので懐かしい単語も出てくる。NIESとか。クリントン大統領が就任した時の雰囲気とか。2023年から見るとすでに過去になりつつあるのだけれど、確かにそんな時代があった。そして著者の日本に対する独特の感覚、こだわり。難解だけど、文学に対する熱のようなものを久しぶりに感じられて、まだまだいろいろ読まなくちゃと思わされる。2023/08/13
srshtrk
1
この多くのエッセイが書かれたバブル時代の日本の時から世界が大きく変わってきましたが、リービが問う国際化、グローバル化や多様性の意味の社会的重要性が増えたばかりの気がする。リービは日本語で喋れるだけではなく、小説まで書ける外国人として誤解され、受け入れられなかった体験が書かれていますが、アメリカを舞台とするエッセイの中にも、アメリカだけではなく、ある意味で母語の英語からも逃げたこの作家の、アメリカ的価値観と英語の「中心性」や「普遍性」の当たり前さに対しての問いと対抗も込められたのではないかと思う。2023/07/28
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