内容説明
江戸時代前期「囚人」時は明暦。火事はからっ風のあおりを受けて、江戸を焼き尽くす。その時、日本橋小伝馬町の牢屋に入っていた男を救った奇跡とは?明治時代「漁師」明治二十九年に東北を襲った三陸沖地震。その復興に至る道のりは、現代社会の防災上の大きな教訓と学びとなった。昭和時代「小学校教師」昭和三十八年。新潟から上京する列車に乗った女性教諭を襲ったのは、記録的な豪雪だった。これは、天災だけでなく、発達した交通網による人災の記録でもある。(ほか3篇)我々の祖先は、科学やテクノロジーが未発達の中、巨大な自然災害にいかに立ち向かい、生き抜いてきたのか―。
著者等紹介
門井慶喜[カドイヨシノブ]
1971年、群馬県桐生市生まれ、栃木県宇都宮市出身。同志社大学文学部文化学科卒業。2003年「キッドナッパーズ」で第42回オール讀物推理小説新人賞を受賞し、作家デビュー。’16年『マジカル・ヒストリー・ツアーミステリと美術で読む近代』で第69回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)受賞。’18年『銀河鉄道の父』で第158回直木賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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旅するランナー
206
天災は忘れた頃にやって来る。甲斐の鉄炮水、三陸の津波、鎌倉時代の飢饉、富士山の噴火、江戸の大火、新潟の豪雪。実際に過去に起こった天災を基に作られた物語。やはり若き武田信玄が治水工事に情熱を燃やし、大武将への足掛かりとなり、その後の都市開発の在り方を変えた一編が特に面白い。天災はいつか必ずやって来ることを読者に知らしめる、門井慶喜は天才だ。2024/02/02
パトラッシュ
133
災害の前には誰もが等しく無力であり、家族や財産を失いながら助かった者は明日から生きるため何をすべきか考えねばならない。家中の反対を押し切って堤防建設に邁進した武田信玄も、津波で流された家の再建に苦しんだ漁師も立場は同じだ。飢民を救うため奴隷として買った商人も、生きるため信仰を棄てたり富士山噴火から逃れた男も政治の理不尽で追い詰められる。しかし近代では、最終話で浜尾先生が「激甚災害に関する限り、地方というのは存在しない」と語るように一地域だけの問題ではなくなる。日本で生きるとは災害と共生することなのだから。2023/09/15
あすなろ
118
全て題名のとおり天災を扱っているが、時代や天災の種類はバラバラである。しかしどれもこれは読んでおくと良いのではないかと思わせるものばかりだった。既読の吉村昭氏小説や磯田道央氏新書を思い起こさせる短編ばかりであり、現代を生きる我々が忘れがちな歴史上の先人達が身を挺して示している天災の歴史がここにある。つまり明日は我々の誰かが実は何らかの天災に遭う可能性がある訳であるが、それから身を護る等を知るという事がこれらの歴史を学ぶという事で大事な事である。しかし、我々はそれをいつも忘れて生きている事に気付かされる。2023/10/15
のぶ
96
天災の起きた時に、人はどう生きていくのかを描いた六作からなる短編集。タイトルに「天災」の文言が入っているが、描かれている天災は、河川の氾濫、地震、津波、火事、飢饉、豪雪、火山の噴火で、その中の火事は明暦の大火、飢饉は鎌倉時代の大飢饉の話で、明暦の大火は人災ではないかと思うし、飢饉も失政が招いたものではないかと思うが、いずれにせよ災害そのものよりも、そこで生きた人を描いているので、読んでいて人の気持ちがよく伝わって来る。いずれにせよ冷静な視点から物語を創っている事に好感が持てた。2023/08/05
いたろう
74
最初、てっきり「天才ものがたり」という、神童の話か何かだと思ったら違った。天災、ことに歴史上の記録に残る程の災害にまつわる6編の短編。甲府の大洪水と信玄の「信玄堤」、明治三陸沖地震の大津波、鎌倉時代・寛喜の飢饉、江戸時代・富士山噴火、江戸時代・明暦の大火、昭和38年の北陸豪雪。信玄堤は、信玄が大号令を発して作ったものだと思っていたが、実際は、まだ若かった信玄が、非協力的な重臣に対抗し、苦労して完成させたものだったとは知らなかった。その他、天災を背景に描かれる人間ドラマは、さすがストーリーテラーの門井さん。2023/11/05