出版社内容情報
「青春とは何か」とは男女ともに簡単には定義できない命題だが、前提として必要なのは「精神的親離れ」である。しかし青春期は、自分の将来への不安に迷い、徐々に自分の世界を見つけるが、同時に好きな人ができる時期でもある。
日本の近代文学の主人公である青年たちは、恋を告白できず片思いで終わるケースが多い。たまに恋が成就しても、ヒロインは難病や事故などで、なぜか死ぬのだ。日本の男性作家には恋愛、あるいは大人の女性を書く力がないのではと著者は喝破する。
たかが文学の話ではないかと思うなかれ、近代文学が我が国ニッポンの精神風土に落としている影は思いのほか深い。
明治期の立身出世物語が青年たちの思想に与えた時代背景は見逃せない。同時に戦争が文学に与えた強い影響も。
しかし夏目漱石『三四郎』から20年、女性作家の宮本百合子『伸子』で、「新しい女性」が恋愛や結婚に縛られない「生きる価値」を見つける時代が近代にも到来する。男女ともに時代の変遷とともに成長するのだ。
近代文学で描かれた男女の生き方は、現代日本の「人生の成功と恋愛」にかける人々の思いを読み解く大いなる鍵となる。
内容説明
日本の男女の恋はなぜが行き違い結ばれない。その謎を明かす。人生の選択と恋の行方に迷う方、必読の書!
目次
序章 出世と恋愛は文学の二大テーマ
第1章 明治青年が見た夢
第2章 大正ボーイの迷走
第3章 悲恋の時代
第4章 モダンガールの恋
終章 出世と恋愛が行き着いた先
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yumiha
50
今のところ「出世」も「恋愛」も縁のないけど、斎藤美奈子の著作は、遠慮のない言説を展開するから、どう近代文学を読み解いているのか気になった。本書でも「三四郎は二番手男子」だの「広田サロンはホモソーシャルなボーイズクラブ」だの、夏目漱石が啞然とするだろう分析。島崎藤村も「暗い、まどろっこしい、サービスが悪い」と歯に衣を着せぬ評価。他にも取り上げた近代文学はほぼ全て辛口評価。それだけではなくその共通点も分析する。その視点は、身勝手な男性作家のご都合主義を暴き、その被害にあってしまったヒロインの側に立っている。2024/02/24
たまきら
44
痛快痛快。世の中男性がハーレクインや宝塚を鼻で笑うのはよく見ますが、いわゆる男性が書いた「近代小説」にパターンを見出し、「はいはいホモソーシャルな優等生による妄想小説ね」などといった感じでバッサッバッサ斬り倒していくのを笑っているうちに読み終わっちゃいました。は~おかしかった。恋愛には両サイドのストーリーがあるのに、多くの場合語り口はワンサイドだからこうなっちゃうのよねえ。2024/01/24
ケイトKATE
43
明治、大正、昭和初期の小説には似たようなパターンがあることを斎藤美奈子が切れ味抜群に検証している。青春小説の主人公の男性は、地方から上京して都会の女性に魅了されるが何もできずフラれる。恋愛小説の主人公の女性は、相思相愛の相手がいるがこじれてしまい若くして死ぬ。特に斎藤美奈子は、男性の登場人物のグズっぷりを容赦なく核心を突いたツッコミを入れているのでぐうの音も出ない。日本の近代小説が同じ内容なのは、当時の日本が立身出世を良しとされていたことが原因であった。また、ホモソーシャル社会の弊害の指摘も鋭い。2023/10/17
おかむら
29
田山花袋「田舎教師」武者小路実篤「友情」尾崎紅葉「金色夜叉」伊藤左千夫「野菊の墓」…。聞いたことあるけど読んだことない明治大正期の青春恋愛小説の王道パターンを斎藤美奈子が楽しく解説。告白できない男たちと死に急ぐ女たち。相変わらず斎藤さんの分析は面白いわ! 野菊の墓とノルウェイの森と世界の中心で愛をさけぶの類似点、「回想の額縁効果」には笑った。男ってやつはよお…。2023/12/20
M H
28
小さい頃、子供用の日本近代文学をしばらく読んでいたが登場人物が死んでしまったり不幸せな話が多くてやめてしまった。本書はそのあたりの背景をスパッと読み解いてくれる。ヒロインはなぜ病気や事故で死ぬのか。そこには作者の技術不足や立身出世に突き進む価値観、純潔を求める大衆心理があるのだと。裏で彼女たちは闘っていたのでは。都合よく殺されてたまったもんじゃないっ。斎藤さんの考察とツッコミに膝を打ちながら思った。勉強になったけど題材になった本は読みたくない…2023/07/31