出版社内容情報
芸術を通して死者と向き合うといった普遍的な取り組みに、
死者視点の二人称と、さらにはSF的な趣向を加えた技巧的な意欲作。――宮内悠介
完成間近の卒業制作を教授に酷評された木田蒼介は、自分の過去――交通事故で亡くした幼馴染・河井明音をテーマに作品を描き直すことを決める。しかし、蒼介は彼女にまつわる記憶を完全になくしていた。明音に関する情報を集めるうち、蒼介の思い描く明音像を投影した幻覚・アカネが現れる。蒼介は、徐々に失われた記憶を辿っていく。
第16回小説現代長編新人賞奨励賞受賞作。
内容説明
「過去も未来も、この絵にはない」完成間近の卒業制作を教授に酷評された木田蒼介は、自分の過去―交通事故で亡くした幼馴染・河井明音をテーマに作品を描き直すことを決める。しかし、蒼介は彼女にまつわる記憶を完全になくしていた。明音に関する情報を集めるうち、蒼介の思い描く明音像を投影した幻覚・アカネが現れる。蒼介は、徐々に失われた記憶を辿っていく。第16回小説現代長編新人賞奨励賞受賞作。
著者等紹介
実石沙枝子[ジツイシサエコ]
1996年生まれ。静岡県出身。『別冊文藝春秋』新人発掘プロジェクト1期生(和足冴・名義)。本作品で第16回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し、デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ウッディ
76
音楽と美術、互いの才能を認め合った幼馴染の明音と通学中に交通事故に会い、明音はなくなり、蒼介は足に障害を負ったものの、ショックで明音の記憶をすべて失ってしまう。美大の卒業制作で過去をテーマに決めた彼は、友人、知人を訪ね、明音との過去を取り戻す。ストーリーテラーである明音と蒼介が幻として出現させたアカネの存在に混乱し、なかなか物語に入って行けなかった。掛けがえのない相手の喪失であったとしても、彼女に関係する記憶だけがすっぽりと抜け落ちてしまうことがあるのだろうかと色んな意味で違和感の残る物語だった。2023/01/06
寂しがり屋の狼さん
58
失われた記憶に触れるとき…過去と向き合い、新たなる一歩を踏み出すための再生の物語。ふたりの天才は終わりの地で巡り合い、旅立つ。物語が死者視点の二人称で綴られているのは新鮮な感じ(◕ᴗ◕✿)2023/03/19
konoha
58
目の前にいる君は何者なの。好きなタイプの青春小説。とても読みやすい。交通事故で幼なじみの明音と明音の記憶を失った蒼介の前に幻覚のアカネが現れる。語り手は明音。冷静だったり、感情的になったり不思議な味わい。文章が素直でシンプルでフレッシュ。書きたいことを迷いなく書いたパワーがある。明音がチェロを弾く前のクセなど物語のフックに作者のセンスを感じた。蒼介、友人の一國、茉莉、みんな一段成長している。爽やかな読後感。ライトな感じは好みが分かれるかも。良かった。 2023/02/19
にいたけ
46
なかなかに読みにくい視点で書かれた文章。視点とは別に現れる視点ライクな彼女。とかなりの特殊設定なのだがこの本が『星の王子さま』のキツネの解説🦊では?と感じはじめ、改めて読むと色んなことがスッキリと理解出来た(自分は)。「きみのバラをかけがえのないものしたのはきみがバラのために費やした時間だったんだ」明音が気づいて欲しかったことはそういうこと。それは幼なじみということであり、王子にとってのバラだということ🌹『星の王子さま』読んでから読むことをおすすめします。2023/08/27
よっち
45
完成間近の卒業制作を教授に酷評された美大生・木田蒼介が、交通事故で亡くした幼馴染・河井明音をテーマに作品を描き直すことを決める美術小説。自らも左足が不自由になった六年前の事故以来、明音の記憶を全て失った蒼介。明音のことを知るために共にあった親友やかつての恩師、明音の友人や自分の母、明音の母と聞き取りを進めるうちに気づく認識の齟齬。それを突き詰めていけばいくほど明音が蒼介にとって才能が共鳴し合うかけがえのない存在だったことが浮き彫りになっていって、ようやく思い出して向き合ったその結末には心揺さぶられました。2022/10/29