出版社内容情報
新井 潤美[アライ メグミ]
著・文・その他
内容説明
映画には教養にあふれ洗練された英語を話す執事がよく登場する。あの言葉づかいや話し方は、「上流の」英語なのか―?‘Pardon’や‘toilet’といった日本人にも身近な英単語は、実は英国では階級の指標になってしまう言葉づかいだった!「執事の英語」を入り口に、アッパー・クラスやコックニーの英語から、アメリカ英語に英国人が抱く微妙な感情やBBCの英語まで、著者自身の経験も交えつつ、話し言葉と「階級」が織りなす複雑で、奥深い文化を描き出す。何気ない表現から見えてくる、もう一つの英語世界にようこそ!
目次
序章 「礼儀正しい」英語はややこしい?
第1章 執事の英語が語るもの―「洗練された」ロウワー・ミドル・クラス
第2章 「U」と「non‐U」―何が「上流」で、何が「上流ではない」のか
第3章 アメリカの悪しき(?)影響―アメリカ英語と階級の複雑な関係
第4章 アッパー・クラスの英語と発音―『マイ・フェア・レディ』の舞台裏
第5章 ワーキング・クラスの英語―魅力的な訛りの世界
終章 標準的な、「正しい」英語とは?―BBCの試行錯誤
著者等紹介
新井潤美[アライメグミ]
東京大学大学院比較文学比較文化専攻博士号取得(学術博士)。東京大学大学院教授。専門は英文学・比較文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
112
英国は一度も敗戦を経験していない。清教徒革命でいったん共和国となったが、後に王政復古したので実質的に王国は続いた。当然だが上流と下流、ブルジョワと貧困層などの身分制と、それに伴う制度や習慣が壊されず残った結果、同じ英語を使いながら出身階層別に語彙や発音が大きく違う状況を生んだのだ。貴族に仕える平民出身の執事が上流の英語を話すのは別々の階層をつなぐ通訳兼コーディネーターのようなもので、衣食住から金銭感覚まで共通点の少ない強固な身分制の潤滑油として必要不可欠だった。改めて英国史のユニークさを再認識させられる。2022/07/20
榊原 香織
80
面白い!英語話すのが怖くなりましたけどね イギリスいい加減にしろよって感じ いっそのことインド英語やシングリッシュで勝負しようかしらん。 ワーキングクラスも海岸の保養地に行けるようになった頃、ミュージックホールで流行った歌の歌詞に、銀色の海、とあるのが、どちらかと言うと北国のイギリスらしい2022/09/24
南北
54
英国の言葉がいかに階級によって異なるかが小説やドラマなどの実例をあげて解説している。著者の本は何冊か読んだが、改めて英国が階級社会であることが認識できた。特にローワー・ミドルクラスが話す一見上品な言葉遣いに批判が集まるのは不思議な感じもしたが、反面納得もできた。外国人が英語を話すときはやはり「容認発音」(RP)で話す必要がありそうだ。著者自身の体験として話す前は「だいじょうぶ、お嬢ちゃん?」なのが「容認発音」(RP)で話したとたん、「どうぞ、奥様」になったというのはおもしろく感じた。2022/08/03
サアベドラ
39
英国の各階級とそれぞれの言葉遣いのややこしい関係について書かれたエッセイ。2022年刊。貴族などの称号や呼称は複雑怪奇で英国人ですら平気で間違える、アッパークラスよりも叩き上げの執事や上昇志向の強いミドルクラスのほうが慇懃で堅苦しい言葉を話す、ロウワークラスの「荒っぽい」話し方は逆にクールと受け取られる、アメリカ英語に対する愛憎、BBC発音に対する信頼など。外国人としてはそこまで肩肘張らずに「外国人」訛りのRPかGAで話せばいいのではないかと思う。英国人になりきりたいという人は相当苦労するだろうが。2022/08/05
kan
30
面白かった!英国の婉曲表現の多用や、直接的な言い回しをはしたないとする感覚と、移民国家でローコンテクストだからこそ誰にでも分かりやすくフランクな米語の表現を単純化だと眉をひそめる感覚に、ああなるほどと思うところが多くあった。アクセントや使用語彙で出自を値踏みされるのは米国も同じだが、そこに階級が加わるのが英国の複雑さだ。先日のチャールズ王のスピーチで、darling Mama, dear late Papaと呼んでいたのもアッパークラスの表現だと納得。言語の包含するものの多さに、身の引き締まる思いがした。2022/09/18