出版社内容情報
第166回芥川賞候補作。
ずっと遠くに行きたかった。
今も行きたいと思っている。
自分の中の怒りの暴発を、なぜ止められないのだろう。
自衛隊を辞め、いまは自転車便メッセンジャーの仕事に就いているサクマは、都内を今日もひた走る。
昼間走る街並みやそこかしこにあるであろう倉庫やオフィス、夜の生活の営み、どれもこれもが明け透けに見えているようで見えない。張りぼての向こう側に広がっているかもしれない実相に触れることはできない。
気鋭の実力派作家、新境地の傑作。
内容説明
ずっと遠くに行きたかった。今も行きたいと思っている。自分の中の怒りの爆発を、なぜ止められないのだろう。自転車便のメッセンジャー、サクマは都内を今日もひた走る。第166回芥川賞受賞。
著者等紹介
砂川文次[スナカワブンジ]
1990年大阪府生まれ。神奈川大学卒業。元自衛官。現在、地方公務員。2016年、「市街戦」で第一二一回文學界新人賞を受賞。著書に『戦場のレビヤタン』『臆病な都市』『小隊』がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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starbro
437
第166回芥川賞受賞作&候補作第四弾(4/5)です。砂川 文次、3作目です。現在の非正規のリアル、生きずらさは伝わってきますが、芥川賞受賞までの作品の出来は感じませんでした。私が選考委員でしたら、本作を推しません。 仕事では、ごくたまに自転車便(メッセンジャー)を利用しますが、プライベートでは、中途半端に冷めた料理が嫌いなのと、貧乏性なので、Uber Eatsを利用したことはありません(笑) https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=00003632912022/03/05
旅するランナー
316
不穏な雰囲気を纏った芥川賞受賞作。自転車メッセンジャーとしての前半から、負のスパイラルで落ちていく後半へ。ずっと遠くに行きたいと思っている主人公。変わりたくても、抜け出したくても、この不寛容で格差のひろがる閉塞感漂う社会からは誰も抜け出せない。短気は損気、と他人事では片付けられない、リアリティがある。2022/03/21
いっち
281
主人公は28歳、メッセンジャーという自転車配送の仕事をしている。一日の走行距離が100キロを超える日が続いてぶっ倒れたことがある。事故で働けなくなっても会社は保障してくれない。自衛隊や不動産屋、コンビニなどで働いたが続かなかった。主人公は耐えることができず、怒りを暴発させてしまう。同棲している女性が妊娠し、福利厚生のある会社への転職を考えるも厳しい。「遠くへ行きたい」と思う主人公。耐えられず事件を起こしてしまう。不器用で生きるのが下手。やり過ごすことができない。でも気持ちは分かる。応援せずにはいられない。2022/01/17
R
258
非常に共感する部分の多い小説だった。物語としては前半と後半で、とてつもない転換があるんだが、前半の自転車稼業ともいうべき仕事と、そこに集う人たちのありよう、主人公の立場と考え方のどれもがありそうで面白いし、後半の劇転後に、主人公はそれまでと同じようにしているのに、前半と真逆の良い評価を得てしまう戸惑いなんかも、生きているとそういうことあるなーという感じが強く印象的だった。周りが変化して、自分の評価が異なることで、自身もまた、知らず内に変化していると気づく瞬間が切り取られていたように思う。2022/04/11
ショースケ
227
芥川賞受賞作。自転車便でメッセンジャーの仕事をしているサクマ。何をやっても続かず、今の仕事も何歳までもできるわけではない。焦りと不安、そして昔からずっと遠くに行きたかった。自分に冷静になれず、気がつけば暴力をふるっている。普段のサクマからはそれが結びつかない。しかしながらその性格が災いして刑務所に入る。自業自得と言えばそうかもしれない。読んでいて、サクマがもうひとつ理解できなかった。文章が少しくどい感じもした。サクマの何者でもないどうしようもない心の叫びは伝わった。2022/03/10