出版社内容情報
いつか、ここに、遠くに、存在した誰か。
言葉によって、わたしたちは出会える。
――柴崎友香さん推薦
シャーロック・ホームズの翻訳者だった父が倒れ、四姉妹の末っ子リブロは家族の歴史をたどりなおす。
時空を超えて紡がれる、風変りでいとしいファミリー・ストーリー。
「そこでは、もうとっくのむかしに死んでしまった人たちが、みんな生きていた。リブロの目の前、ここに、生きていた。」
百年前のロンドンから、戦争と震災をへて現在まで、家族の記憶とホームズの物語が鮮やかに交錯する――。
無数の喪失を超えて生き続ける言葉の奇跡を描く、注目作家・小林エリカの最新傑作小説。
内容説明
シャーロック・ホームズの翻訳者だった父が倒れ、四姉妹の末っ子リブロは家族の歴史をたどりなおす。時空を超えて紡がれる、風変りでいとしいファミリー・ストーリー。
目次
最後の挨拶―His Last Bow
交霊
著者等紹介
小林エリカ[コバヤシエリカ]
1978年、東京生まれ。作家、マンガ家。2014年、「マダム・キュリーと朝食を」(集英社)で第27回三島由紀夫賞候補、第151回芥川龍之介賞候補。小説『トリニティ、トリニティ、トリニティ』(集英社)で第7回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
104
高橋源一郎「飛ぶ教室」で金原ひとみがおすすめ本として紹介していたので、読んでみた。いわゆるシャーロキアンの一家の娘から見た父親の一生の物語。コナン・ドイルの人生と、シャーロック・ホームズの小説からの台詞、医者であった祖父の話し、父親も医者であったが、エスペラント語で出会った再婚の妻との出会いなど時代も人物も交錯し、形見である「シャーロック・ホームズ全集」が文庫化されたところで終える。淡々とした文章だが、娘と父の関係が自立した大人同志のものに感じる。もう一編「交霊」も載っているが、こちらは今ひとつでした。2022/11/20
いたろう
78
表題作他、短編1編。表題作は、著者の父親、医者でシャーロック・ホームズ・シリーズの翻訳家、小林司氏を中心とする、家族の物語。最初、知らずに、てっきりフィクションだと思って読み始めたが、年表記などが妙に具体的なので、もしやと思って調べて、初めて著者の実際の家族のことだと分かった。そう知って読むと、たんたんと簡潔な文章の行間に家族への思いが見えてくる。ホームズは、昔、読んだが、本作で出てくる登場人物ネタは、今ではよく分からない。ホームズ・シリーズをもう一度読んでみたい。その時は、小林司・東山あかね夫妻の訳で。2021/09/16
tenori
52
2010年に亡くなった著者の父親(シャーロック・ホームズシリーズ全巻の翻訳者)への追悼作であり、家族の歴史を過去と現在を巧みに交錯させながら描いている。同時に、目に見えない脅威(大戦時の毒ガスによる攻撃、震災に起因する放射性物質の拡散、新型ウイルスなど)を織り交ぜているあたりも小林エリカさんらしさ。脳内出血で奪われる記憶と、震災による津波で奪われる生活を同様の表現を重複して用いることで緊迫感を身近に感じさせる表現力も唸った。が、結果何を主題にして何を伝えたいのか判然としない印象も残る。2021/10/10
ちょき
39
父親であり、シャーロキアンである小林司氏についての追悼小説と言ってよいだろう。タイトルに込められた想いとはー。河出書房新社から発売されているシャーロックホームズの小説は小林司氏とその奥様の東山あかねさんの共著となっており、お二人の馴れ初めについても書いてあった。父親の病気で倒れる晩年から死に逝くまでの思い出や弟リブロとの関係など読んでて一人の父親を亡くした娘として、父への思い出を整理しているのだろうかと、含まれる愛情がじりじりと伝わってくる。「交霊」第一次大戦後、ドイル晩年からのオマージュ作品の短編付き。2021/09/15
フリージア
36
読んでみました。シャーロック・ホームズの翻訳をされた家族の話と分かっていたので入り込み易かった。倒れた父の看病をしながら、足の踏み場も無いほど本が積み上がっていた家、父と再婚の母との素敵な出会い、出征していた軍医の祖父の話、東北大地震の話などを回想しつつ、大切な人が亡くなる思いも。詩のような小説でした。短編の「交霊」は誰が誰か交錯したが、見えないものを見せた、"ラジウムの火"を見つけたキュリー婦人を見ている霊…。科学では明らかにならない物がまだまだ。2021/09/07