内容説明
夏目漱石、宮武外骨、南方熊楠、幸田露伴、正岡子規、尾崎紅葉、斎藤緑雨。個性も出自も様々なこの七人がみな幕末動乱の真っ只中、慶応三年生まれという事実に惹かれつづけた著者が、膨大な文献を渉猟、咀嚼し、織り上げた明治前期文人絵巻。二〇〇一年度講談社エッセイ賞受賞作。
目次
1(エージャナイカと神経衰弱;二つの誕生日を持つ男たち ほか)
2(七人男、東京に揃う;『当世書生気質』と『小説神髄』 ほか)
3(大日本帝国憲法発布;紅露時代の幕開け ほか)
4(紅葉館熱と東京専門学校文学科の創設;正直正太夫死す ほか)
5(漱石の「中学改良策」;子規の入社と外骨の出獄 ほか)
6(英文学士・夏目金之助誕生する;外骨の細川家騒動とロンドンの熊楠 ほか)
著者等紹介
坪内祐三[ツボウチユウゾウ]
1958・5・8~2020・1・13。評論家。東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院修士課程修了。雑誌「東京人」の編集者、フリー編集者を経て執筆活動を始める。国内外を問わず文学作品、社会現象や状況、映像作品、音楽、演劇、相撲などさまざまな分野に幅広く関心を寄せた。2020年1月、61歳で急死。著書多数。筑摩書房『明治の文学』全25巻の編集や文芸誌「en‐taxi」編集同人も務めた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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shizuka
22
教科書の常連である文豪たちにも若い頃があり、悩みがあり、悶絶があり、嫉妬で眠れぬ夜もあったのだ。尾崎紅葉さんがなんとなく中心となって書かれているけれど、その間、アメリカで日本でみんなやっぱり生きている。自然主義派の田山花袋さんもちょこっと出てくるけれど、扱いがひどい。野心があってなんぼ。野心なくして発展はない。右へ行っても左へいってもチャンスに出くわすことができた黄金期。漢文から始まり英文学、仏文学、果ては露文学と一体いつ学んでいるんだろうと思うほどの勉強量。現代日本人との素養と教養の質の違いに項垂れる。2023/09/30
Inzaghico (Etsuko Oshita)
9
余談、脇道大好きなわたしは、本筋とは関係ない逸話についつい目がいってしまう。7人のなかでも、お気に入りは反骨・在野の才ある奇人の外骨と熊楠のふたりだ。熊楠は、明治という時代にアメリカにわたり、その後イギリスに移って14年間日本に帰らなかった。アメリカでは大学に入って酒を飲んで騒ぐなどしているのは、微笑ましい。ただ、自分の好きな学問には身を打ち込んだ。そして14年間の海外生活で鍛えられた英語力は相当なもので、「方丈記」の英訳が漱石版と熊楠版で紹介されている。坪内が言うように、熊楠訳のほうがこなれている。2021/04/11
Hotspur
3
単行本で昔読んだことがあるので、再読。漱石・外骨・熊楠・露伴・子規・紅葉・緑雨の同年生まれの文人の生涯を、明治以降の日本社会の変化の上において語る力作評論。その中心となる概ね明治22年から27年までの五年間の記述、なかでも尾崎紅葉と正岡子規のパートは脱線お構いなしの文体と相俟って特に読ませる一方、やむを得ないのだが外骨・緑雨の記述はやや薄いか。本作は日清戦争開戦前夜に突然終わるが、その理由が著者あとがきによると「私は飽きてしまったのである」と人を食っている。詳しい年譜だな、と思ったら坪内祐三の年譜だった。2023/08/20
takao
3
ふむ2022/10/20
ゆーいちろー
1
久しぶりにどっぷりと近代文学的世界に浸れた。国文学科出身のいちおう近代文学専攻の身として、知的好奇心をくすぐられる本だ。(ただ、自分は近代というよりは現代文学と言うべき埴谷雄高で卒論を書いたインチキ近代文学出身者なので明治文学はそれほどよく知らないのである)しかしこの七人が同い年とはまったく実感がわかない。本書も当初の予定通り外骨の死まで書かれて本当の意味での完結をしていたら、きっと一生の座右の書となっただろう。伊藤整の「日本文壇史」も読みたいし、露伴全集も読みたい。なじみのない緑雨も読んでみたくなった。2021/06/17