内容説明
板前になる夢が破れた若者・磯市は身を持ち崩し、高利貸しの手先となって厳しい取り立てを行う毎日を過ごす。そんな時、幼馴染みのおしなと再会し、荒んだ思いを抱く。おしなの父・菊右衛門は、深川の名店の主人。彼には、板前仲間だった磯市の父を殺したとの噂が…。復讐劇の結末が心を打つ、涙の名作!
著者等紹介
千野隆司[チノタカシ]
1951年東京都生まれ。國學院大學文学部卒。’90年「夜の道行」で小説推理新人賞を受賞。時代小説のシリーズを多数手がける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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真理そら
58
板前仲間の2人が酔いに任せて賭けをして橋の欄干を歩いた。そして落下して1人が死んでしまった。残された1人は仲間を殺したと疑われ、あんなくだらない賭けをしなければよかったという自責の念に苦しめられながらも料理屋を大きくしていく。死んだ板前の息子は父が殺されたと思いこんで復讐を誓う。周囲がどれほど心を砕いて説得しても頑なな心はどうにもならない。しっとりと優しい文体で描かれる登場人物はそれぞれ孤独だが救いのある結末なので読後感はさわやか。2021/02/13
ひさか
12
2005年5月講談社刊。2021年1月講談社文庫化。新刊かと思って手に取りましたが、千野さんの2005年の長編でした。父を殺されたとの思い込みで、身を持ち崩した磯市の復讐の顛末ストーリーですが、暗くて気が滅入ってしまいました。最近の千野さんの作品とは違った趣きの作品でした。2021/03/07
hiyu
5
元板前であり身を崩した磯市が主人公かな。いつもの感じとは異なり、終始やるせない思いが示されている中で、磯市が種々の葛藤を抱えながらもとるべき道を見出していく。だが、どうしてこのタイトルになったのだろうか。2021/11/01
ゆきんこ
2
腕のいい板前だった父親を死に追いやった相手への復讐のためだけに生きてきた、息子の物語。思い込みであったとしても、何十年も一人の人間を憎み、恨み続けるのは苦しいのではないか、と磯市の心情を追いかけていて思う。その間に変わっていってしまうものもあるわけで、自分も含めた人の心の変化に戸惑ったり、孤独に打ちのめされたりする姿が迷子になった子供のようにも見えて辛くなる。それでも、曇り空の合間から薄日がさすような、仄かな明るさが感じられるラストで良かった。2021/06/19
nkwada
1
磯市が、父親の同僚だった菊右衛門が父を殺したとして彼を恨む時代小説。立派な人格者に描かれる菊右衛門をかたくなに恨む姿に違和感を覚えるが、島流しで江戸を出発する際にみんなに見送られる様子はジーンときた。2023/01/13