内容説明
ここは夜叉神川の上流。両側に高い崖が迫る谷、聞こえるのは川の音と、山で鳴く鳥の声だけだ。夜叉神川の上流から下流へ、そして海へと続く全五話を収録。人間の心の中にある魔物と神、その恐怖と祝福とを描く、野間児童文芸賞受賞作家最新作。
著者等紹介
安東みきえ[アンドウミキエ]
1953年、山梨県生まれ。『天のシーソー』で第十一回椋鳩十児童文学賞、「ふゆのひだまり」で第十一回小さな童話大賞(毎日新聞社主催)、「いただきます」で同選者賞今江祥智賞、『満月の娘たち』で第五十六回野間児童文芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ちょろこ
106
ざわざわが続く一冊。穏やかな物語ではない。むしろ、背中に冷たいものを押し付けられたような想像以上にダークな物語に正直意表を突かれた。初っ端から冷たい風が吹き荒ぶ。ドキドキとワクワクの危うさ。人の心に棲まう"鬼"が導くワクワクほど怖いものはない。終始ざわざわが続くけれど仄かに命を感じるのが良かった。その大切さが「果ての浜」で大海原となって伝わる。石碑の意味といい、小さな素直な疑問が大きな答え、教えと変わるさまは秀逸。小中学生が決してピュアなものだけを心の川に浮かべているわけではないことを表紙を見ながら思う。2024/06/04
nico🐬波待ち中
80
夜叉神川の側に住む子供たちの周りで起こる摩訶不思議な出来事5話。子供の世界は複雑で、自分の気持ちを巧く表現できずつい残酷な言葉を平気で言ってしまうことも。そんな不器用な子供たちに警笛を鳴らすように、不思議な現象に次々と誘い込まれる。「鬼はだれの心にも棲んでいる」そんな怖い鬼だけれど、大人になるにつれ見て見ぬ振りが出来るようになる。素直に反省出来る子供の期間だから、鬼も神のごとく優しく叱ってくれるのかもしれない。ラストはどれも、長かった夜が明け眩しい朝日が昇るように、ほっと息をつけるものばかりで安心した。2023/05/07
ゆみねこ
77
夜叉神川の上流から下流、そして沖縄の離島の海へと繋がる5つのお話。YAの棚にあったが、小学校高学年くらいの世代からぜひ手に取って読んでもらいたい1冊。心の中にある暗いものや不穏なもの、それと対峙して子どもたちは成長して大人になってゆく。怖いものもあるけど、読み心地は悪くない。大人が読むと忘れていた時代を思い出せるかも。2024/10/07
itica
73
大人でもけっこう怖い。夢か幻?鬼?それとも、うつせみ?夜叉神川の上流から始まり、徐々に下流に移り、最後は海にたどり付く5編の物語。この世のものでないものの怖さ。これは肌感覚で感じる恐怖。しかし、それより怖いと思うのは、人間の持つ欲や恨み、嫉妬と言った負の感情だ。誰でも心の奥に鬼を住まわせていると言う。慈しむ心、謙虚な心を忘れたら誰でも鬼になってしまう。本当にそうだよね。昔、人間が犯した罪も忘れてはいけないよね。二度と同じことを繰り返さないためにも。 2021/03/06
がらくたどん
61
「夜叉神川」に沿って上流から河口そして沖縄の海へ、思春期の揺れ惑う心が漂う。人の心も含め外の世界が全て不思議で楽しくも怖くもあった子ども時代を終えた時期、少年少女は自分の心を覗く事を覚え、自分の中に不可解な怖いものを見つけてしまう。傷つけたい・支配したい・独占したい、弱虫な心や自分だけを護りたい心。外の闇も怖いが自分の中に闇を見るのは本当に怖い。誰かに手を握っていて欲しい。一緒に心の闇を覗きながらも内省を覚えたばかりで心の闇との付き合い方も知らない若い読者を混沌の中に置き去りにしない強い意志を感じる物語♪2024/05/27