内容説明
私たちは、絶滅が危惧される動物や虐待される動物に胸を痛め、動物を大事にするのはよいことだ、と信じています。しかし、そうした考えの起源は意外に新しいものです。誰もが子どもの頃に手にした『シートン動物記』の著者、テレビ番組の取材中にヒグマに襲われて死去した写真家、そして和歌山県太地町の伝統的なイルカ漁を糾弾する映画―三つの事例の向こう側に控える時代背景、交錯する思惑、政治的意図、イデオロギーを詳細に追求していく本書は、私たちの常識を心地よく覆します。気鋭の著者が書き上げた読者への挑戦状!
目次
序論―東西二元論を越えて
第1章 忘れられた作家シートン(『動物記』とアメリカ;「人種再生」のビジョン;日本科学の精神と『動物記』;孤高の人々―平岩とシートンの動物観)
第2章 ある写真家の死―写真家・星野道夫の軌跡(Michioの死とその周辺;原野をめぐる言説;星野が見た「アラスカ」)
第3章 快楽としての動物保護―イルカをめぐる現代的神話(なぜイルカなのか;イメージの系譜学;人種階層と動物保護;宇宙を泳ぐイルカ;再び『ザ・コーヴ』へ)
著者等紹介
信岡朝子[ノブオカアサコ]
1974年、東京生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。現在、東洋大学文学部准教授。専門は、比較文学・比較文化(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ベル@bell-zou
33
「何のために動物を護らなければならないのか」可愛いから?可哀そうだから?本書を読み終えても、あとがきの著者の問いに答えられない。仮に何かの種が絶滅したとして人間に不都合なことなど恐らくないのだという。では何故。教室の本棚に必ず並んでいたシートン動物記が本国アメリカでは認知度が低いという意外。日本の動物文学の父・平岩米吉の理念にシートンの作品世界が合致した偶然。デジタル処理による芸術としての動物写真の意義。絶滅危惧動物のクローズアップ写真が"減少している"ことを実感出来なくさせるという矛盾。↓(×5)2020/12/30
Sakie
20
そもそも人間の集団がさほど大きくなかった頃までは、民族と動物の間に古来より時間をかけて培った関係は文化や思想として、節度を持った均衡点を持っていた。他者のそれを想像する必要をはじめ、住みついてさえ会得することのできない微細の感覚があることは、前提としたい。思うに、人間は21世紀になってなお、自然のことも動物のことも理解しきれてなどいないのだ。加えて、一義的な「正しさ」を振りかざして、「野蛮」と決めつけた相手を糾弾する行為が快感と知覚される現象は想像に難くない。そしてそれは物事をより良くする結果は生まない。2022/06/08
まえぞう
20
著者の学術論文をベースにしているため、内容はかなり専門的です。読む前はザ・コーヴへの関心が中心でしたが、読んでみるとアラスカを愛した写真家の星野道夫の話が印象的でした。欧米人、特にアングロ・サクソン系の人々の価値観が優先される中での違う価値観との対立ということですが、著者の仰るとおり、様々な価値観を受け入れ、その多様性を護っていくことが重要なんだと思います。2020/11/06
さまい
17
なぜ西洋人は執拗なまでにクジラとイルカを保護したがるのか?がテーマとなっている第三部の「快楽としての動物保護」が刺激的だった。私自身はクジラを食べた経験がなく捕鯨に興味はなかったため、知らないうちにスーパーホエールの信仰にハマってしまっていたことに気づいた。この本を読む限りでは、キリスト教価値観や他バイアスから生まれているのが今日の強烈なクジラ保護のため、捕鯨国と反捕鯨国の協調(妥協?)は難しいだろう2022/04/11
kenitirokikuti
14
図書館にて。社会学的の本かなと思ったら、著者は比較文学・比較文化のひとだった▲第1章のシートンを巡るお話を読んだ。シートン動物記、日本では戦前から児童向け読み物として定番だが、英米ではかなり早くから忘れられた作家である。あっちだと、ジャック・ロンドンに近いのね。19世紀末から20世紀初頭の人種主義やらなんやらを背景に、北米の野生の狼の表象が描かれる。平井和正のヤングウルフガイだぁ…。で、この野生の狼のイメージはクジラやイルカに移ってゆく。平井は女神信仰になってったな(月光やウルフガイDNA!2020/11/30
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