出版社内容情報
永田町の地下鉄駅の階段を上がると、そこは30年前の風景。ワンマンな父に反発し自殺した兄が現れた。さらに満州に出征する父を目撃し、また戦後闇市で精力的に商いに励む父に出会う。だが封印された“過去”に行ったため……。思わず涙がこぼれ落ちる感動の浅田ワールド。吉川英治文学新人賞に輝く名作。
内容説明
地下鉄駅の階段を上がると、そこは三十年前の、家族と暮らした懐かしい町。高校生で自殺をした兄の命日となる日だった。兄の姿を見つけた真次は運命を変えようとするが、時間を行き来するうちにさらなる過去にさかのぼり…。いつの時代も懸命に生きた人びとがいた。人生という奇跡を描く、感動の傑作長編。
著者等紹介
浅田次郎[アサダジロウ]
1951年東京都生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で第16回吉川英治文学新人賞、1997年『鉄道員』で第117回直木賞、2000年『壬生義士伝』で第13回柴田錬三郎賞、2006年『お腹召しませ』で第1回中央公論文芸賞と第10回司馬遼太郎賞、2008年『中原の虹』で第42回吉川英治文学賞、2010年『終わらざる夏』で第64回毎日出版文化賞、2016年『帰郷』で大佛次郎賞をそれぞれ受賞。「瘡穹の昴」シリーズは、累計533万部を超える大ベストセラーとなっている。2019年、「蒼穹の昴」シリーズをはじめとする文学界への貢献で、菊池寛賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えにくす
121
★★★★☆地下鉄の階段を上がると、そこは東京五輪直前の1964年。真次は自殺した兄の姿を見つけ、何とか運命を変えようとする。だが更に時間を遡り、終戦直後の新宿へ。そこで出会う運命の人物。恋人のみっちゃんもタイムスリップして、同じ人物に出会う。これは偶然か必然か?なぜ二人は時をかけるのか?過去の人たちは貧しいがエネルギッシュで、懸命に生きる姿に応援したくなる。果たして兄は救えるのか?真次とみっちゃんの、運命や如何に!ラストで明らかになる衝撃の真実と驚くべき結末に、涙が頬を伝う。ノスタルジックな感動の名作。2021/06/02
まさきち
88
昭和の懐かしさに溢れた情景と、解けゆく家族との蟠りの先に、まさかこんな結末が待っていようとは驚きでした。最後に辛い境遇で過ごし続けてきたみち子が、少しでもいいから両親に愛されていたことの喜びを感じられてよかった。2024/09/27
キンモクセイ
58
成り上がりの父は家族に暴力を振るうDV野郎だった。DVなんて言葉がない時代、母も真次たち兄弟も我慢するしかなかった。縁をきって生活していた真次がある日の地下道を歩いてると違和感が。地上に出るとそこは兄の昭一が死のうとする日だった。夢か幻覚か?まだ間に合うかもしれない。真次が時間旅行のように過去に行くと若き日の父親に出会う。何故あんなに暴君になったのか?真次の不倫相手のみち子まで過去に行く意味は?自殺する前の兄に会えたのに。悲しい運命がそれぞれに待ち受ける。あぁ、彼女の心を思うと悲しいくらい辛く切ないな。2021/03/17
ぽろん
46
新装版。20年も前に描かれていたとは驚きました。のっぺい先生に導かれたのか、地下鉄の意思なのか、大嫌いな父親の過去にタイムワープ。亡き兄の死んだ日を皮切りに、戦前戦中戦後を彷徨う。父親の良いところもいっぱい見るのに、やはり仲直りとはいかないのか。みちこの生い立ち、彼女の行動がなんとも切なく、やりきれなかった。2020/11/14
konoha
44
浅田さんの文章は力強い。真次は地下鉄に乗り、兄が自死した日、父親の若い頃にタイムスリップする。東京オリンピック、戦後の闇市の描写が印象的。真次が見る風景や街の人と会話した時の違和感でタイムスリップしたことを上手く表現している。自身の迷いや家族との確執を乗り越えるというテーマに合っていた。真次の愛人であるデザイナーのみち子の運命が切ない。地下鉄は昔も今も東京を象徴する存在の一つ。便利だけど不思議で硬質な感じもある地下鉄を題材に選び、成功していると思う。2024/08/14