内容説明
鳥の不審死から始まった新型感染症の噂。その渦中に首都庁に勤めるKは巻き込まれていく…。組織の論理と不条理を描く傑作。
著者等紹介
砂川文次[スナカワブンジ]
1990年大阪府生まれ。神奈川大学卒業。元自衛官。現在、地方公務員。2016年、「市街戦」で第一二一回文學界新人賞を受賞。2018年、「戦場のレビヤタン」で第一六〇回芥川賞候補となる。著書に両作品を収録した『戦場のレビヤタン』がある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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keroppi
91
芥川賞を受賞した砂川文次氏の作品で、図書館にあったので読んでみた。自衛隊から地方公務員という経歴らしく、その経験から生まれたような作品だ。感染症が発生したと思われる都市のお役所内部と検査済ワッペンがないと電車に乗れないような臆病な都市が描かれる。コロナ感染拡大前に書かれたようだが、コロナ禍で見た様々なことを想起させる。「役人に人件費も機会費用も効率性もない。問題が解決しようがしまいが、それも関係ない。ただ静かになってくれれば、それでいいのだ。」芥川賞受賞作品も読んでみたくなった。2022/01/22
いたろう
73
主人公は、都庁(小説中では「首都庁」)の職員。鳧(けり)という鳥が大量に死に、未確認の感染症の存在が疑われる事態が発生。この小説は、コロナ禍が本格化する前に書かれたものだが、コロナ禍の騒動を先読みしていたのではないかと思われる部分があることに驚き。ナンセンスな検査済「ワッペン」の強要は、異常なまでのマスク信奉を思い起こさせ、有志の指導員は、「善意」で行動する自粛ポリスを思わせる。そもそも、感染症はどこで発生しているのか。お役所仕事にあきれているうちに、徐々にディストピア小説の様相を呈していくのが恐ろしい。2020/11/06
ゆのん
72
鳬(けり)という野鳥の死が増え、住人達が徐々に騒ぎ出す。マスコミが動き出す。自分達の保身を第一に考える行政が嫌々動き出す。何の根拠も因果関係も無いとの研究者の声は届かない。自分も新型感染症に罹るのでは…。騒ぐ住民を黙らせないと自分の立場や出世が危ない…。こうなってくると一種の集団ヒステリーの様な騒ぎに。騒動の勃発から終息までが描かれている。真実よりも噂や、望む結果ありきの対応はフィクションだと自分に言い聞かせながら読んではいても一抹の不安が何度も過ぎる。1752020/07/26
ポップノア@背番号16
68
首都庁の総務局行政部に勤めるK。鳥インフルエンザのような新型感染症の対応に翻弄される。自治体からは被害の報告が上がるが、「そのような事実は確認できていない」と動こうとしない国との板挟みに。「役人に人件費も効率性もない。問題が解決しようがしまいがも関係ない。ただ静かになってくれれば」との1文は、公務員でもある著者の本音だろうか。検査済みであることを証明するワッペンを付けてないと街も歩けない描写は、現実でも起こりうる「行き過ぎた正義感」の恐ろしさを感じた。興味深く読めたけど、エンタメ性には乏しかったかな。2022/01/26
いっち
55
都心で新型感染症の噂が広がる。主人公は首都庁の職員。鳥の死骸が相次いで発見されたことで、保健所などの関係機関が調査する。しかし感染症はなかった。感染症がない以上、国も都も動けない。しかし市民は不安を覚える。ある自治体の医師連盟が病気や症例を公表し、国も都も巻き込まれていく。あるはずのない感染症に、でっち上げられた病気や症例。おかしいと思っても、システムは止まらない。主人公は流れに乗るだけ。逆らうことはできない。大きな流れには抵抗できないと思った。私が同じ立場でも何もできない。臆病かもしれないが、仕方ない。2024/02/11