出版社内容情報
新たな世界遺産、百舌鳥・古市古墳群。巨大古墳はなぜ、仁徳天皇陵とされたのか。幕末以降の「天皇陵決定」の歴史とカラクリを解明。
内容説明
世界遺産の仁徳天皇陵や履中天皇陵には、本当にその天皇が眠っているのだろうか。江戸後期に古墳を独自調査した蒲生君平。幕末期に陵墓の修補を願い出た宇都宮藩の戸田忠至。彼らの研究を活かし、明治政府は、全天皇の陵を決定した。神話に登場する天皇の実在を証明するには、墓の確定が欠かせなかったのである。近代の産物、天皇陵の謎を解明する。
目次
はじめに―天皇陵と宮内庁
第1章 創られた天皇陵
第2章 天皇陵決定法
第3章 天皇陵の改定・解除
第4章 天皇による祭祀
第5章 もうひとつの天皇陵
第6章 聖域か文化財か
おわりに―「聖域」としての天皇陵
著者等紹介
外池昇[トイケノボル]
1957年、東京都生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士(後期)課程単位取得修了。調布学園女子短期大学日本語日本文化学科専任講師等を経て、成城大学文芸学部教授。博士(文学、成城大学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さとうしん
15
近現代における天皇陵の位置づけをめぐる話。一部の古墳が文久の修陵の際に大幅に手を入れられているという話は、史跡の外観が不変ではないというのは海外だけでなく日本でも同じという気付きを与えてくれる。また、天皇陵と天皇による祭祀との関係について紙幅を割いているのも本書の特色である。中国とは異なり、被葬者を示すような文字資料が副葬されていないということが、天皇陵や陵墓参考地の扱いに関して宮内庁側が政治的に付け入る隙のようなものになっているのではないかと考えさせる。2020/01/04
kawasaki
9
2007年刊『天皇陵論』(新人物往来社)の文庫化。長いあとがきに、2019年刊行時までの状況(百舌鳥古市古墳群の世界遺産登録など)を付す。近世・近代史の観点から、江戸後期から近代に陵墓が「整備」された過程や、その過程でいかなる検討がされてきたか、天皇の祭祀はいかなるものかといった諸点を扱う。文化財として「開かれた」存在にした方がよいという基本スタンスながら、おざなりな管理も危惧(高松塚ショックの大きさよ)。「あり方を考えるべき」とはよく言われるが、その実際の現場の状況を窺うことができる。2019/11/01
もるーのれ
6
近世・近代史の立場からの陵墓の研究。幕末頃からの天皇陵の治定や、それに基づく古墳の形状の改変などの過程も知ることができて面白い。こうした改変は考古学の立場(特に古墳の形態に関する研究)ではなかなか認識できない所でもあるので、留意したいものである。また、情報公開請求で得られた情報を用いての陵墓の検証手法は鮮やか。陵墓として一旦指定されてしまった古墳については、現状では立入が制限されてしまっており、研究の上では大きな損失である。現在の陵墓を巡る問題点の指摘と、今後の陵墓研究への提言は傾聴に値する。2020/02/23
青雲空
6
難解ではないが、専門家向け。 天皇陵比定の出鱈目さは知っていたが、陵墓参考地のいい加減さには呆れた。 森浩一さんが提唱して、○○陵という呼称から地元名を付けた名前(大山古墳)が広まっていたのに、ユネスコ登録でまた○○陵に戻ってしまわないか危惧する。 2019/11/27
katashin86
4
カバー写真は「仁徳天皇陵とされる大山古墳」、帯紙には「本当に仁徳天皇陵なのか」とある。そもそも、記紀神話上の存在たる仁徳天皇の「本当のお墓」とは何なのか? 著者は古墳が近世から近代の尊王思想・明治国家樹立の中で天皇陵という管理をされるようになっていく歴史をずっと研究しており、僕も著作を複数拝読している。この本は仁徳陵古墳の世界遺産登録を受けての文庫再版であり、著者の幅広い天皇陵研究を1冊でまとめた内容となっている。古墳ロマンを愛する人、近代天皇制に興味をもつ人にぜひおすすめ。2020/06/22