内容説明
未曾有の災害に襲われた町。高校生のサナエは、幼い弟を連れて避難所に身を寄せていた。混乱の中、押し寄せるマスコミの取材にねじれた高揚感を抱くサナエ。だがいつまでも目を背け続けるわけにはいかない、いつか訪れなければならない場所があった。強く、脆く、そして激しく―喪失の悲しみと絶望の底からの、帰還の旅路。第61回群像新人文学賞受賞作。
著者等紹介
北条裕子[ホウジョウユウコ]
1985年、山梨県生まれ。青山学院大学卒業。2018年、『美しい顔』で第六十一回群像新人文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いつでも母さん
188
あの日を境にこちら側とあちら側を分けた全ての事柄。母を喪い自分が生きている事。被災者とそうでない人。内側から突き動かされる圧倒的な心情が苦しく切ない。生と死を隔てるのは実はそんなに違わない。けれど、そこに纏わる諸々の事は人生をも左右する。この17歳の『サナエ』を通して私は又、一つの真実を知ることになった。多くの『サナエ』がいるだろう。どうぞ健やかにと祈らずにいられない。考えさせられる第61回群像新人文学賞受賞作品。2019/05/27
ナイスネイチャ
115
図書館本。東日本大震災に被災した女子高校生サナエが7才の弟と避難所で暮らし、行方不明の母を探す様を報道に晒して、悲劇のヒロイン面した自身に自己嫌悪する内容。凄く気持ちの葛藤とか卑屈だったが、最後良識ある人に出会い自分を取り戻す様は心打たれました。盗作問題がその後どうなったか知りませんが、内容的には物凄く印象的な作品。2020/01/29
mariya926
105
311の被災者の物語。読んでいるのが苦しくて、明日この本を返却するって決めていなければ読み切れなかったかもしれません。すべてを失った後の苦しさを受け入れるストーリ。最後は希望を少し感じられましたが、一生傷を抱えていくのですね。感情移り変わりがリアルで、しかしそこに立ち向かう方法を教えてくれる大人がいなかったらどうなっていたんだろうと思います。2024/03/22
ででんでん
90
懸命に戻ってきた日常の中にごろごろ転がっている「もしも」という小石。そのひとつにでも「つまずけば最後、永遠に答えのでないもしもを考えることをやめられなくなる。」もしもの世界では、大事なものを失わなくて済んだ方法が、その可能性が、あまりにも沢山ありすぎる。自分が誰かに間違ったことをしてしまったのではないかというときでさえ、私はかなりの「もしも」に囚われる。全くの喪失から生まれる「もしも」は、どんなに膨大で、どんなに痛いものか、想像しても追いつかない。間違いを懐かしく思い出すはずの未来のない永遠の「もしも」。2019/07/16
sayuri
80
第61回群像新人文学賞受賞作品。152ページの中編だが2011年3月11日の東日本大震災を元に描いた小説という事で読了には気力と体力が必要だった。7歳の幼い弟と共に避難所に身を寄せる17歳のサナエが主人公。物語はサナエの一人称で進んで行く。「かわいそう」を撮る為にカメラを向けるテレビ局関係者。サナエが感じる「報道はフィクションなんだ」の言葉が胸に重くのし掛かって来る。尋常ではない環境の中で歪んだ高揚感とほの暗い感情を抱くサナエの心理描写が秀逸。もしも~だったらとエンドレスに続く後悔の気持ちに涙腺が緩む。 2019/05/26
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