出版社内容情報
ナチスの密命を受け、神戸に渡ったアドルフ・カウフマンだったが、戦争で荒れ果てた故郷に愕然とする。アドルフ・カミルらを拷問し、ついに念願の極秘文書を手にしたカウフマンに、アドルフ・ヒットラーに関する驚愕の知らせが……! 3人のアドルフを通じて憎しみあう人間のむなしさを描いた大作、感動の完結編! <手塚治虫漫画全集収録巻数>手塚治虫漫画全集MT375~376『アドルフに告ぐ』第4~5巻収録 <初出掲載>1983年1月6日号~1985年5月30日号 週刊文春連載(1984年12月13日号~1985年2月14日号 休載)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ねこさん
15
夜中に目が覚めて、爆撃中の街を形容して「地獄」というにはあまりに悲惨で哀れなその光景、それを手塚は「世界の終末」とあえて言葉で表現したことを思いだす。その時、「世界」とはなんだったのか。人が人を虐げ、殴る音、命を奪う熱、その皮膚感覚の連鎖、ままならなさとはなんなのか、それが存在することを名辞しようもないし、実際にいま自分がどの場面で何を感じたのか、それさえわからない。戦争を通過している人とそうでない人の言葉、生死、感情、欲求の差異と、同じように切実にありたいと願うこと、それ自体の切実でなさがもどかしい。2018/01/25
Mc6ρ助
12
前々から気になっていた手塚治虫御大の名作(の一つ)。年明けに行きつけの図書館で貸出可となったのを狙って借り受けた。とても漫画とは思えない「重さ」に読みすすめずにいて何回も借り直していたが、ロシアのウクライナ侵攻が始まってビックリ、ようやく返却期限をめどに読み終えた。御大の紡ぐメインテーマはまったく古びていないが、近頃のジェットコースター・エンタメに爺さまは慣れすぎたのかもしれない。『ぼく達の習った正義とは正しいことをすることじゃなくてただ相手を威圧するためのお題目なんだと悟った(2巻:p409)』2022/03/24
getsuki
12
3冊一気に読了。3人のアドルフと巻き込まれる形となった草平、そして関わった多くの人々の犠牲の上に成り立った物語の結末はあまりにも虚しい。こんなことの為に生きた訳じゃないし、人を殺した訳じゃない。戦争というものの本質をえぐり、死ぬまで終わることのない苦悩を抱えるしかない遣る瀬無さ。生きるとは何かを読み手に痛烈に訴えかけてくる作品だった。2018/04/08
しろ
10
☆8 そこらの授業とかよりもよっぽど第二次世界大戦やユダヤ人差別についてよくわかる。手塚治虫らしいコミカルな感じでもあり、飽きさせないジェットコースターサスペンスで、恋愛も絡んだ素晴らしい人間ドラマ。ヒトラーはユダヤ人、ということを証明する文書をめぐっていき「ユダヤ人」であることを問うた三人のアドルフの末路を描く。蔑まれ、恨んで、を永遠と繰り返すしかない人間の愚かさを改めて確認させられた。史上に残る漫画の一つ。2012/09/23
templecity
9
ユダヤ人、ドイツ人、日本人と歴史背景と民族のエゴに恋愛、家族を交えた壮大なドラマであった。国とは何か、民族とは何か、運命とは何かを考えさせられる。そして、戦争というものは本当に人間として行ってはいけないものだと分かる。手塚治虫が戦中派であり、それを体験した身として伝えたかったというあとがきも納得である。2018/09/17