内容説明
武蔵野の雑木林で殺人事件が発生。瀕死の被害者は「テン」と呟いて息を引き取った。意味不明の「テン」とは何を指すのか。デート中、事件に遭遇した田島は、新聞記者らしい関心から周辺を洗う。どうやら「テン」は天使のことらしいと気づくも、その先には予想もしない暗闇が広がっていた。第11回江戸川乱歩賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
papako
82
ちょろこさんにオススメいただいて。やっぱり面白い。今までの3冊よりも読みやすかった。トリック、犯人よりも動機にフォーカスしている。新聞記者の目の前で死んだフリーライター。果たして犯人は?被害者が最後に残した『テン…』とは?犯人は途中からわかるけど、その動機が明らかになると、タイトルがとても胸に迫ります。そしてこの時代だから、隠された真実。息苦しい。うん、やっぱり西村京太郎作品いいです。2020/09/15
オーウェン
57
新聞記者の田島が雑木林で見つけた瀕死の人間。 「テン」と呟き死んだその謎を求め、関係者を洗っていく。 これと同時に刑事たちの捜査も描かれるが、次第にリンクしていく犯人像。 そしてテンの正体が終盤に分かるが、何とも重い余韻を突き付けてくる。 ミステリではあるが、社会派のようなドラマが顔を出してくる。 犯人が分かって良かったという類いではなく、ある種の問題提起のような中身であった。2023/07/30
みっぴー
56
乱歩賞受賞作品です。死に際に「テン」と言い残して死んだ男。「テン」を手がかりに犯人を探しだす、ミステリというより松本清張を軽くした捜査小説に近い感じがしました。ちょっと上手くいきすぎな感じはありますが、それほど不満の残る作品でもなく、読んでも後悔はしないと思います。何より型にはまった青臭さが逆にいい味を出しています。突出したキャラクターや大胆なトリックはありませんが、真面目に書いてるのがしっかりと伝わってくるので心情的に作者を応援したくなる一作でした。2016/05/18
ヨーコ・オクダ
35
うちは西村センセの作品を「箸休め」的な感じで読むことが多いんやけど、コレはそういう扱いが不適なタイプ。新聞記者・田島がデート中に遭遇した事件を追いかける。被害者が最期に残した「テン…」という言葉を手がかりにして順調に警察の捜査&彼の取材は進んでいく。後半、明らかになる犯人や殺害手法。そこで田島や読者たちの単純な「知りたい欲」を飲み込んでしまうのが、犯人の周辺に仕込まれた暗〜いバックグラウンド。社会派の要素も含まれるものの、巻末の解説での「世にいう社会派推理小説ではない」という一文に何となく納得。2018/11/26
HERO-TAKA
33
トラベルミステリーで知られる西村京太郎氏は、また社会派のミステリーを多く書かれており、その初期の代表作とされているのが本作だ。殺人事件の被害者は「テン」と呟いて息を引き取った。「テン」とは天使のことらしいのだが、天使は被害者のことなのか、はたまた犯人のことなのか……。最初は天使の推理にあまり興味がわかず、聖蹟桜ヶ丘の周りが畠ばかりだったりするような古い景観や当時の風俗に注目していた。だが犯人が明かされてから、天使の本当の意味が明かされ、作者の書きたかったことが見えてくると、静かに物語に寄り添いたくなった。2019/04/13