• ポイントキャンペーン

講談社文芸文庫
私の東京地図

  • ただいまウェブストアではご注文を受け付けておりません。
  • サイズ 文庫判/ページ数 283p/高さ 16cm
  • 商品コード 9784062901338
  • NDC分類 913.6
  • Cコード C0193

出版社内容情報

講談社文芸文庫スタンダード006

知らぬ道にも踏みいり、袋小路に迷いぬいたこともある。ある時は、人に連れ立たれて、歩調を揃えて気負って歩いた道。それらの東京の街は、あらかた焼け崩れた。焼けた東京の街に立って、私は私の地図を展げる。私の中に染みついてしまった地図は、私自身の姿だ。

芥川龍之介、中野重治、小林多喜二らとの出会い、結婚、自殺未遂、出産、離婚、同棲……といった人生を、作家活動や非合法活動で当局に弾圧を受け始めた太平洋戦争へと突入する時代を背景にし、上野、日本橋、神楽坂など、親しんだ東京の街々を生き生きとした人々の息吹のなかに描いた連作短篇集。自らの過去を探り、自らを確かめるような筆が心に響く。

東京が佐多稲子の心象風景として鮮やかに描かれる
――東京の日常――押上橋を渡って京成電車の停留所の横の狭い道を抜けてゆく。石畳の道は、魚屋の水に濡れて、どろどろになっている。ひと山十銭、五銭と盛り上げた八百屋、うどんの玉を売っている店、豆腐屋などごたごたした道は、おかみさんや労働者ですれちがって歩くほど。――そして、関東大震災――大きな建物ごと、ガチャーン、ガチャーンと揺すられるたびに、私は自分を、大きな箱の中に入れられた玩具のひとつのように感じた。だがその箱の周囲は広くて、高くて、箱そのものがいつもの高い天井よりもずうっと恐ろしかった。
講談社文芸文庫スタンダードは、時代の原基としての存在感をたたえ、今なお輝きを放つ作品を精選した新装版です。

※本書は、講談社『佐多稲子全集』第四巻(昭和53年3月刊)を底本としました。

佐多 稲子[サタ イネコ]
著・文・その他

内容説明

芥川龍之介、中野重治、小林多喜二らとの出会い、結婚、自殺未遂、出産、離婚、同棲…といった人生を、作家活動や非合法活動で当局に弾圧を受け始めた太平洋戦争へと突入する時代を背景にし、上野、日本橋、神楽坂など、親しんだ東京の街々を生き生きとした人々の息吹のなかに描いた連作短篇集。自らの過去を探り、自らを確かめるような筆が心に響く。

著者等紹介

佐多稲子[サタイネコ]
1904・6・1~1998・10・12。小説家。長崎県生まれ。1915年、一家をあげて上京。26年、同人誌「驢馬」の同人(中野重治、窪川鶴次郎、堀辰雄等)と出会う。28年、最初の作品「キャラメル工場から」を発表。プロレタリア作家として出発する。著書に『女の宿』(女流文学賞)、『樹影』(野間文芸賞)、『時に佇つ』(川端康成文学賞)、『夏の栞―中野重治をおくる―』(毎日芸術賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

佐島楓

72
私小説でありながら、関東大震災以前の東京を記録した文学でもある、歴史的に貴重な作品。と同時に、昔の女性の生き方を考察させられる物語でもある。佐多さんはこれらの風景をいつか書いてやると思いながら記憶なさっていたのだろうか。例え壮絶な出来事であっても、自分を外に据えて客観視しているその筆に脱帽してしまう。2018/11/04

Narumi

2
東京はあまりなじみのない場所ですが、著者の思い出に連れられてなんだか懐かしい気持ちになります。東京の祖母も娘時代に同じような風景を目にしたのかもしれない。もっと話を聞いておけばよかった。2015/07/01

So Honda

1
佐多稲子「私の東京地図」読了。自伝的作品だが、終戦直後の焼け野原の東京から振り返る大正〜戦前の東京風景の細やかな描写が魅力的だ。我が実家近辺の場面も多い。上野清凌亭の「あぐりさん」の元に通う「彫刻家の三郎さん」は多分小学校の同級生のおじいさん。2018/02/22

典型的なあだ名

1
著者の戦後までの暮らしぶりを東京の風景とともに記されている。「読んでみて、これが私の人生なんだよ」という感じではなく、暮らしぶりやその時の思いを淡々と自分のために書き記している印象を受けた。特に印象に残った話は、関東大震災です。2014/06/24

ハチアカデミー

1
佐多稲子の生活した東京30年史。まだまだ盛り場であった浅草に始まり、上野、日本橋、神楽坂、駒込などなど、細部を虫眼鏡で見たような、ことこまかな描写が魅力である。その筆致は至極落ち着いていて、ミニチュアールな風景画のようでもある。関東大震災後の町の変貌も、ここでは描かれないが戦後の激しい変化も目にしてきた作家の筆は、ささやかな日々を慈しむようにすすむ。後半は作家達との出会いや非合法運動に関わった日々も描かれる。浅草吾妻橋に立った松屋百貨店を嘆いた佐多は、現代のスカイツリーを見たら何を思うのだろうか。2014/04/07

外部のウェブサイトに移動します

よろしければ下記URLをクリックしてください。

https://bookmeter.com/books/4032851
  • ご注意事項