出版社内容情報
明治の近松・河竹黙阿弥の七十八年の生涯。坪内逍遙に「明治の近松、我国のシェークスピア」と称された河竹黙阿弥。秘蔵の原稿や手記をもとに、この最後の歌舞伎狂言作家の真の姿を、曾孫が描いた評伝。
内容説明
坪内逍遙に“明治の近松、我国のシェークピア”と称された河竹黙阿弥。その七十八年の生涯を、秘蔵の原稿や手記をもとに、曾孫にあたる著者が心をこめて描いた評伝。幕末から明治への激動の時代を生きた黙阿弥の作者魂と、江戸作者の矜持。それは現代にも通じるひとつの「生」の記録でもある。
目次
1 黙阿弥のいない天覧劇
2 大江戸の黙阿弥
3 最良の日々
4 「黙」の字の謎
5 ふたつの家と娘たち
6 晩年と遺書
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
№9
27
評伝というとその人物の事績を追いかけるもので、読み物としてはあまり面白いものではないと思うけど、本書はどこか小説仕立てであり、黙阿弥という名前の謎解きあり、一気に読ませられた。何しろのっけから黙阿弥のことには触れられず、明治鹿鳴館時代の最後の徒花とも思われる史上初の歌舞伎天覧劇の顛末から始まるのだから。江戸から明治にかけての混沌とした演劇史のなかでの黙阿弥の存在感をより際立たせる筋立ては見事。黙阿弥の外連味たっぷりの作劇とは対照的に、本人の意外なほど律儀で地味な生活ぶり、彼を取り巻く時代背景。面白かった。2017/06/20
nakmas
11
彼が残した膨大な多作の仕事はもちろんだが、 その生き方に魅力を感じる。 劇作家としての仕事に生きて、 世間や政治には首をつっこまず、かといって無関心でなく、刺すべき釘は刺し, 何より家族や弟子、懇意の役者や座元を守ってきた。素晴らしい生き様。2023/04/13
絶間之助
1
河竹登志夫さんを追悼して、積読本から引っ張り出して読みました。黙阿弥は登志夫さんのお祖父ちゃんにあたるわけですが、単なる評伝ではなく、深い愛情を感じる本でした。 黙阿弥の淡々とした職人技、あくまで他人を気遣う細心さ、譲らないところは決して折れない頑固さ。江戸っ子っていうと祭りで騒ぐ派手なところばかり目立ちますが、私の知っている江戸っ子って、こんな感じだなあと思いました。今時、そんな生き方はないのでしょうけど、懐かしさを感じます。 歌舞伎ファンからすると、弁天小僧とか三人吉三についてもっと言及して欲しかった2013/06/07
susie
1
渡辺保の『黙阿弥の明治維新』1997よりこちらの方が数倍良い。「黙阿弥」と名乗るところの解釈は従来の説と違うということを河竹家秘蔵の資料から明らかにするのが本書の眼目だが、控えめというのかもうちょっと書いてほしい気がした。ちなみに文芸春秋社からでた単行本1993、文春文庫1996と本文は異同なしとのこと。2011/08/13