出版社内容情報
虚構が生み出す新しい現実。新機軸の私小説 作者の分身である小説家・古田信次が、郷土の詩人の篠田賢作に自分の年譜を頼んだことから、小説家のルーツを美濃を媒介にして探る、自由奔放に展開する物語。
小島 信夫[コジマ ノブオ]
著・文・その他
内容説明
物語は、著者自身の分身とおぼしき小説家・古田信次が、郷里岐阜に住む詩人・篠田賢作に自分の年譜の作成を頼むことから始まる。二人の会話を主軸に、美濃に関係の深い人物たちが、複雑に絡み合い、蜿蜒と繰り広げる人間模様。愛する故郷の自然、風土、方言、歴史を取り込み、ルーツを探りながら、客観的に「私」を見つめる。伝統的な小説作法、小説形式を廃した、独特の饒舌体による新機軸の長篇小説。
著者等紹介
小島信夫[コジマノブオ]
1915・2・28~2006・10・26。小説家。岐阜県生まれ。東京帝大英文科卒。1942年、入営し中国大陸に渡り、46年に復員。高校教師を経て、54年より明治大学に勤務。55年、「アメリカン・スクール」で芥川賞受賞。「第三の新人」として出発するが、独自の文学世界を構築。主な著書に『抱擁家族』(谷崎潤一郎賞)、『私の作家評伝』(芸術選奨)、『私の作家遍歴』(日本文学大賞)、『別れる理由』(野間文芸賞)、『うるわしき日々』(読売文学賞)等(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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佐島楓
52
読みにくい文体ではないのに、相当根気がないと読めない。不思議な作品だ。2017/07/14
やまはるか
17
同時期に執筆された「別れる理由」は1年前にはじめてまだ読み終えていない。どちらもストーリーとてない。何が面白いかと言うことは解説で保坂和志氏が書いているが、小生はそれとは違って、小説の自由というか、P226で森敦である林貢氏と電話で話していて相手側にキャッチホンで電話が入り、受話器を持ったまま待たされる間に別の話を語る。二度までも。12章では「美濃」を執筆している作家が入院したために登場人物である詳雲堂若主人から読者への手紙の形で「美濃」の代筆探しの話など、前例の有無は知らないが奇抜な手法が頭に焼付いた。2023/06/30
gogo
17
良い意味で、期待を裏切られた。はじめのうちは、主人公が自らのルーツを探る物語だと思って読んでいたら、主題が岐阜の作家・詩人たちの人間関係に移り、結局ルーツもおっさんらの人間関係もよく分からんまま終わった。口語調の文章は美濃の山々のようにうねりにうねっていて、読者をさんざん煙に巻きながら、時折ヘンテコな表現で笑わせ、しかし、いきなり核心を突くような大事なことを言う。だから気が抜けない。頭がおかしくなりそうな読後感は、保坂和志さんの的を射た解説で若干中和された。2016/05/21
フリウリ
14
主人公の(小島信夫とおぼしき)「古田」が、故郷の美濃を訪れてからの、人間関係が描かれる。とはいえ「古田」のほかに(小島信夫とおぼしき)「私」も出てくる。人物を含めて、万事がその調子(あいまい、矛盾)なのに、すらすら読めるところに、なにか秘密がある。岐阜県の皆さん、あるいは美濃地方(という言い方はあるのか)の皆さんは、40年以上前の本書を、今でもひもとくのでしょうか? 描かれる景物を見てみたいと思いました。「古田も美濃を甘やかしているが、美濃の方も古田を甘やかしている。つまり、なれあいだな」 82023/09/01
しゅん
14
「私」の周辺を回りながら落ち着くことを知らない言葉たち。平易な文章ながら、どこかが狂っているメタフィクションですぐに立ち位置を見失う。途中からは漂うことに終始しようと思った。美濃という出身の土地の意味が、ひとつのイメージに結びつかないようにと注意深い。散弾した故郷の像。エゴイズムか、思いやりか、和解か、裏切りか。答えは当然ない。各章の終わり方が好きで、特に四章の以下の部分。「そのとき編集者は、次のようにいって私を絶望させた。「ひとつ、小説、平野謙というのを書いてもらえませんか」」2019/07/18