内容説明
和人によるアイヌ民族迫害の歴史を、誇り高き部族長の裔・コシャマインの悲劇的な人生に象徴させ、昭和十一年、第三回芥川賞を受賞した、叙事詩的作品「コシャマイン記」を中心に、棄民されていく開拓民の群像と、そこでの苦闘に迫る「ナンマッカの大男」「ニシタッパの農夫」など、北海道を舞台とした初期作品九篇を精選。アイヌと下層農民を描くことで、民族的連帯を模索した稀有なる試み。
著者等紹介
鶴田知也[ツルタトモヤ]
1902年2月19日~1988年4月1日。作家。農業指導者。福岡県生まれ。東京神学社神学校中退。1922年、北海道の八雲を訪ね、農業指導員・太田正治、ユーラップコタンの首長イコトルらと親交を結ぶ。27年、同郷の葉山嘉樹の勧めで上京、労農芸術家連盟に加盟。「文芸戦線」を舞台に作家活動を開始。左翼文学運動解体後、36年、生涯の友・伊藤永之介と「小説」創刊。同誌発表の「コシャマイン記」で第3回芥川賞受賞。45年、伊藤の勧めで秋田県に疎開。同地に5年留まり、農業問題にかかわる。61年、「月刊農業共同経営」を創刊。25年間、同誌の編集・発行人を務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
245
前書きに「祖母が神威様から授かって私に伝えた神謡」とあるが、そうした伝承に仮託した創作だろう。地名や人名などの他にも随所にアイヌ語を織り交ぜ、それらしいものに仕上げている。全体の構想は英雄叙事詩の体裁を取る。部族ごとに孤立するアイヌ民族を統合して戦うべくして生まれた英雄コシャマイン(実在したようだ)だが、期待に満ちた始まりながら、萎むように終息する結末は違和感が残る。ジークフリートがもう一人のモデルであるかも知れない。あるいはまた、物語全体をプロレタリア闘争の隠喩的表現と解することもできそうだ。2015/10/15
kaizen@名古屋de朝活読書会
81
【芥川賞】コマシャインの戦いを描写した歴史物。ウタリ(同胞)がシャモ(和人)に欺されて殺される。芥川賞が、辺境、異文化を受け入れる姿勢を見せる選択。歴史を振り返るきっかけ。「セナタの酋長タナケシ」「タナケシの妹の子ヘナウケ」「ユーラップ部族の酋長イコトイに頼るに勝ることはないのだが、今はまだ雪が山を被うていないから、イワナイ部落の酋長シクフのもとに」2014/03/25
みっぴー
57
第三回、芥川賞受賞作品。コシャマインとはアイヌの人名で、そのコシャマインの幼少期から命尽きるまでの一生を描いた英雄憚です。とにかく人名や地名が覚えにくく読みにくいし、日本人をシャモと呼び習わすことに、生理的な嫌悪感を感じました。そのせいで物語に入り込むことが出来ませんでした。ちょっと進んで数ページ戻って、、、の繰り返し。受賞理由が凄く知りたいです。私には、作品の良さが理解出来ませんでした。2017/04/07
大粒まろん
16
抒情的で飾り気のない文体。内容的は、アイヌ民族と和人間の民族闘争の悲しい英雄譚。これは、アイヌといえば北海道大学の教授の発言が炎上したのを思い出すのですが、今さらに奥が深いとしか言いようが無い作品。このアイヌ先住民論争をゲノムレベルで解決しようとしてるのでしょうが、殊更悩ましくしている気もします。この遺伝子論争はいまだに世界中の紛争の火種と言えるものでしょう。民族と領土は小さくても大きくても連綿と続く悲劇です。それこそトーテミズムが人間の普遍的な思考において消えていない限り終わりは無いのでしょうか、、。2023/07/05
クラムボン
13
北海道を舞台とした短編集です。その中の「コシャマイン記」が阿刀田高の「続ものがたり風土記」で紹介され興味を持ちました。アイヌの英雄コシャマインに仮託した架空の物語で、昭和11年の第3回芥川賞作品です。当時プロレタリア文学派の著者がアイヌ民族を描く。そして相反する思想の菊池寛の文藝春秋で評価された。ただ短編集の主要を成すのは、道南の八雲の風土や開拓農民の開墾の歴史に基づいた物語で、寧ろこちらが魅力的でした。年譜には戦後は秋田に移住、関心は農業問題に移り、月刊誌の発行、数度の選挙の落選など活動家のようでした。2022/01/21