出版社内容情報
資本主義に社会主義的計画経済を導入したケインズ、自由主義経済の擁護者ハイエク。経済危機の今、両者の思想を再び比較検証する。ケインズとハイエクが対照的な経済学者とみなされているという通俗的理解は、ここ数年覆されている。ケインズとハイエクは新古典派のタームでは語りえない重要な思想を掲げ、しばしば論争を繰り広げた。
二人は晩年、自らを反共産主義且反保守主義と位置づけている。対立の論点は、その中間にどのように自由主義を配置するかをめぐるものだった。
ハイエクが著した『隷属への道』での主張、「設計主義、社会主義的計画化には反対するが、それは自由放任主義とイコールではない」「自由競争を促進、有効にするためには法的構造を整備する」にはケインズは賛辞をおくり、またケインズの考えもほぼ同様のものであった。
現在の経済状況を鑑みて、対立点をあげると、たとえば「市場」。
ハイエクは市場を複雑なシステムの一つ、とりわけ分散する知識の処理装置とみなした。模倣と慣行を維持することで、一部の人が保持する将来への期待や分類法が淘汰され裏切られる。市場は社会を無数で多様な知識に対して適応させる。その適応を狂わせ恐慌をもたらすのが政策的な干渉、とりわけ金融政策だと見立てた。
ケインズによれば、不安定なのは市場そのものである。市場は、いわば自生的に無秩序でありうる。それに秩序を取り戻させるのが経済政策だという見方となる。
そのような二人の共通認識と対立点を徹底比較、論考する。
ヒュームやバークなど経済に影響をあたえた古典思想にも言及、現在の日本社会が抱える問題点を経済思想史の視点から考察する試みでもある。
該博な知識をもってなる松原教授ならではの「資本」論や喫緊の課題である「金融市場への不安」も主たるテーマとなる。
ケインズとハイエクが論争を重ねた30年代と同様に、危機的状況が続く世界経済。流動性の罠に陥っている経済の現状と人々の不安とは何か。21世紀の世界的経済危機と迷走する社会思想を歴史に残る巨人の経済学的知性で読み解く。
サブプライム危機とリーマン・ショックを経て、アメリカの覇権と基軸通貨であるドルの威信は落ちた。グローバル・インバランスが揺らぐ現在、本書の刊行には大きな意義がある。
序章 ケインズとハイエクよ、再び
第一部 伝記―二つの人生とまなざしの交錯―
第二部 不況はなぜ起きるか―二つの反主流派経済学―
第一章 出発点としての「経済学」:「貨幣改革論」から「価格と生産」まで
第二章 ケインズとハイエクの衝突:書評論争をめぐって
第三章 論争後の軌跡:「一般理論」と主観主義へ
第三部 二つの自由論―進化と危機―
第四章 自由の条件と終焉:「自由の条件」と「自由放任の終焉」
第五章 通貨機構論における対立:「国家的自給」と「貨幣発行自由化論」
第六章 複雑性・不確実性と人間:慣行と模倣をめぐって
第七章 保守主義をどう評価するか:「便宜」と「法」
第八章 二人を分かつもの:秩序と危機の認識
松原 隆一郎[マツバラ リュウイチロウ]
著・文・その他
内容説明
巨人の経済思想を徹底比較。世界的経済危機を乗り越える思想と社会哲学は歴史に学ぶ。
目次
ケインズとハイエク、再び
第1部 伝記―二つの人生とまなざしの交錯(交遊と衝突)
第2部 不況はなぜ起きるか―二つの反主流派経済学(出発点としての「経済学」―『貨幣改革論』から『価格と生産』まで;ケインズとハイエクの衝突―書評論争をめぐって;論争後の軌跡―『一般理論』と主観主義へ)
第3部 二つの自由論―進化と危機(自由の条件と終焉―『自由の条件』と『自由放任の終焉』;通貨機構論における対立―「国家的自給」と『貨幣発行自由化論』;複雑性・不確実性と人間―慣行と模倣をめぐって;保守主義をどう評価するか―「便宜」と「法」;二人を分かつもの―秩序と危機の認識)
著者等紹介
松原隆一郎[マツバラリュウイチロウ]
1956年兵庫県生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、同大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は社会経済学・相関社会科学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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