出版社内容情報
岸本 佐知子[キシモト サチコ]
編集/翻訳
内容説明
五月のあの朝、わたしはどうしようもなく恋に落ちてしまった―。木に片思いをしたり、バービー人形と真剣交際したり。変な愛はこんなにも純粋で狂おしい。数多くの熱心な読者を持つ訳者が選び抜いた、奇想天外で切実な想いのつまった11篇。ありふれた恋愛小説とは一味も二味もちがう、「究極の愛」の姿。
著者等紹介
岸本佐知子[キシモトサチコ]
1960年神奈川県生まれ。上智大学文学部英文学科卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
依空
79
再読。”変”愛小説とタイトルにある通り、木に恋をしたり、バービー人形と真剣交際をしたりと、収録された11編はどれも変わった愛のお話。私達の常識からみれば、彼らの愛は確かに変なものにしか見えないけれど、相手を本気で愛おしいと思う気持ちがこれ以上ないくらいストレートに描かれているので、実はとても純粋な愛の形を描いているだけなのじゃないかと思えてきます。けれど、愛と狂気は紙一重。行き過ぎてしまえば、純粋だったはずの愛も異常行為になってしまうという危険性も表れていました。作家の想像力の豊かさを十分に味わえる1冊。2017/02/07
HANA
67
木に片思いした人、バービー人形と付き合っている少年、母親だけが存在する島。「恋」愛ではなく「変」愛、極めて奇妙な愛の形を取り扱ったアンソロジー。その名に恥じずどれもこれも奇妙な味の小説を、たっぷりと味わう事が出来る。ただその中の愛はとってもピュア、何かを一思いに思い詰めると「変」になるのですね。気に入った話は愛する人との共同生活を描いた「丸飲み」バービー人形との恋愛「リアル・ドール」ハウツー物のパロディ「お母さん攻略法」等。現実に即した話で、誰と誰がくっついたとか別れたとかいう話には飽きたあなたにどうぞ。2017/10/10
sin
63
変愛とあるが変ではない。男女を問わず愛の多様性をカタログにして見せられているようだ。木に恋した女は、そのパートナーに馴れ初めし頃の変わらぬ彼女を感じさせる“五月”。セレブはアルバイトの少年を体内に囲い、少年はところ構わず体液を垂れ流し欲望に蕩ける“まる呑み”。兄は妹のバービーと愛欲に耽り、ケンに欲望を移す“リアル・ドール”。帰らない父達を待つ娘達は、流れ着いた男に惹かれて身を任し、母達は男を始末する“母たちの島”その他、愛と云う上書き保存をする前の欲望の物語たちと云ったところか?2019/05/05
さおり
44
岸本佐知子さんが好きなので、翻訳本は苦手だけどがんばってみました。確かに、どれもこれも変で、どれもこれも愛。おもしろいのもあったし、本当に意味がわからないのもあった。皮膚が足からだんだん宇宙服に変わり、やがて宇宙に飛び立ってしまう流行り病にかかった人の話「僕らが天王星に着くころ」や妹のバービー人形との真剣交際を描いた「リアルドール」、母親との恋愛を勧める「お母さん攻略法」などなど。日本作家編もあるらしいので、そのうち読んでみたい。2019/02/17
絹恵
41
かたちのない愛に正しさなんて求めて、果たしてそれを本物と呼べるの?と謳うような短篇集。ここには守るための罪も優しい嘘も存在しないけれど、それでも痛みを伴うのは、声ひとつで世界を変えることが出来たとしてもどうしようもなく報われない思いがあるからなのだと思います。その儚さが紛れもなく、不変の愛を感じさせました。特に『五月』(Ali Smith)が好きです。2015/07/19