出版社内容情報
阿部 和重[アベ カズシゲ]
著・文・その他
内容説明
歌を愛し、吟遊詩人を夢見ながらも、唄う能力を欠いた19歳の少女シオリ。唄うことを禁じられ、心ない者たちにその純粋さを弄ばれても夢を抱き続けるシオリに、運命はさらなる過酷な試練を突き付ける。小型核爆弾だというスーツケースを託され、東京の地下深くにひとり潜ったシオリが起こした奇跡とは。
著者等紹介
阿部和重[アベカズシゲ]
1968年山形県生まれ。’94年『アメリカの夜』で第37回群像新人文学賞を受賞し作家デビュー。’99年『無情の世界』で第21回野間文芸新人賞、2004年『シンセミア』で第15回伊藤整文学賞と第58回毎日出版文化賞、’05年『グランド・フィナーレ』で第132回芥川賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Y2K☮
27
前半は息苦しいけど読み易いドキュメント、後半は「キャプテンサンダーボルト」にも運用された加速系サスペンス。吟遊詩人に憧れるも、客観的には音痴な故に歌う事を己に禁じたシオリ。ただ自由に歌いたいだけなのに恋人や友人、家族にすら迫害される。誰もが彼女の言葉や行動を都合よく解釈して弄ぶ。まるでワイルドの「幸福な王子」。携帯型の核爆弾は「インディヴィジュアル・プロジェクション」にも出て来たし、実在事件とのリンクも著者の十八番。さすがの面白さ。救いのなさが救いという金原ひとみの解説にも一理あるが、もう一つ光が欲しい。2015/04/08
ちぇけら
14
これは絶望の物語であり、希望の物語でもある。シオリは、吟遊詩人になりたいと思いながらも、極度の音痴で歌うことを禁じられ、周りの人々にその純粋さ故につけこまれ、自ら罪を感じ自らに罰を課し、それでも運命はまだシオリに試練を与える。スーツケース型核爆弾を渡されたシオリは、東京の地下に潜っていく……。シオリの絶望の人生が語られ、ラストは地下=内面に潜っていくという捉え方ができるのだろう。しかしシオリが歌うことのできなかった歌が、Zによって語られた希望の物語だと思って、ぼくは本を閉じた。2017/05/24
NAOAMI
14
唄うことが大好きで吟遊詩人になることを夢見るシオリ。でも彼女の唄う能力は絶望的な音痴。自身がそれに気づく気づかされる過程が面白い。コレは何の話だ?公園で学校を退職した爺さんが話している物語としては、長いぞ、これ長すぎるだろ。最後の最後に公園に話が戻り、爺さんとシオリの関係もわかるのだが。読ませる力、引き込む力がすごくて一気読みしてしまった。他人を見る目がなく、うまく他人と付き合えないシオリの苦労ばかりの人生を読んでいると、そこになんで「謎のポルトガル人」が出てこにゃいかんの?とにかく彼女が痛すぎるのだ。2014/12/30
葵
12
こ、これ、ものすごい力技で感動のラストをでっちあげていないか!?前半はおとぎ話のようなふわふわした空気が漂っているのに、突然のスーツケース型核爆弾登場に思わず笑ってしまう。逆にこれもファンタジーの世界観?主人公は早見和真のイノセントデイズを彷彿させる。他人に人生の舵を任せ流されるように生きて、過去から学習せず最悪の事態が起きそうでもなお「自己犠牲」という形で状況を変える努力をせず自滅する。それであなたの魂は昇華させられるんですか?腹立たしいのに読む手は止まらない。阿部和重…なんなんだ…。次買いました笑2024/06/13
ぽち
9
読みやすい、短めの長編小説。映画的。バランスの悪い所もある。最後まるっと収まるのも映画的か。チャック・パラニュークを読んだ時にも思ったけどそれは自分好みではないんだな。そーか阿部和重のケータイ小説というのはこれだったか。2025/04/03