内容説明
小紋を考案し型を彫ることを生業に望み、色挿しをするふゆと末を約束した由蔵。だが、魚油問屋を継いだ兄が急死する。やむなく家業を継ぎ、ふゆとも別かれた由蔵は、商売に明け暮れていくが、あるとき、なじみの料理屋の女将が“おもしろい小紋を見つけた”と言う。表題作を含め全五篇を収録。
著者等紹介
乙川優三郎［オトカワユウザブロウ］
１９５３年、東京都生まれ。千葉県立国府台高校卒。国内外のホテルに勤務後、’９６年「薮燕」で第７６回オール讀物新人賞を受賞し、作家デビュー。同年『霧の橋』（講談社文庫）で第７回時代小説大賞、’０１年『五年の梅』（新潮文庫）で第１４回山本周五郎賞、’０２年『生きる』（文春文庫）で第１２７回直木賞、’０４年『武家用心集』（集英社文庫）で第１０回中山義秀文学賞を受賞（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
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ふじさん
100
「芥火」を改題した作品。5つの短編には、懸命に生きる女が鮮やかに描かれている。商人の妾となった女と娼家の女主「芥火」、女ひとりで逞しく生きる小料理屋の女将と小紋の世界に生きる職人の女「夜の小紋」、夫の先立たれながらも貧しさに耐え、ひとり暮らしを続ける老女「虚舟」、焼き物の世界に生きる娘「柴の家」、仕事で家を留守にすることが多い夫との生活に不満と不安を抱える妻「妖花」。自由に生きることが難しい江戸時代に、強い意志を持ってわが道を切り拓こうとする女たちを優しい眼差しで描いた作品。女を描く巧みさはさすがだ。2023/09/29
おしゃべりメガネ
92
５編からなる短編集です。相変わらず様々なキャラの女性を書かせたら天下一品の乙川さんです。本作も年齢、立場、環境らはバラバラながらどの作品にもステキな女性達が登場します。共感する、しないはさておき、本作に登場する女性達、それぞれの生き方や考え方に魅了されました。時代小説ながら、今読んでもさほど違和感なく受け止めれるかなと。本作においてはきっと男性読者よりも女性読者さんが読むほうが、きっと更に味わい深く読むコトができるのかもしれません。全体的な印象はボリュームが少ないからか控えめでしたがステキな短編集です。2025/05/24
みも
91
江戸時代の江戸（深川・浅草・築地など）を舞台にした40ページ程度の短編5篇。いずれも甲乙つけ難く、ひたむきさと滋味深さが、心に静謐且つ暖かな波紋を呼び起こす作品集。江戸時代の市井を描いているが、現代に巧妙に照応させ、今を生きる僕らはどう考えるかを問いかけてくる。解説によれば女性が鮮やかに描かれているとの事だが、僕はそれに加え職業的技巧を芸術の高みにまで昇華させた職人達の真摯な生き様を描く物語として受け止めた。丁寧に紡ぎだされるその文章は流麗にして端正。読み心地は柔らかく、その余韻もまた清々しくて心地よい。2024/02/20
じいじ
81
乙川さんが、小説の中で描く女がとても好い。本作は、女の地位が低く見られた封建社会で、力強く生きる女たちが鮮やかに描かれた短篇集。表題作は、着物の世界を描いた男と女の物語。夢だった小紋への道を諦めて、家業の魚油問屋を継ぐ男。或る日、小料理屋の女将から美しい見事な小紋を見せられる。好きで別れた昔の女の作だった…。◆単行本のときの表題作【芥火】も読み応えがある。舞台は江戸・深川。身請けした旦那に見捨てられた女が、切見世（女郎屋）の女主を目指して一念発起する。女の強かさが、著者のやさしさで描かれた佳作です。2020/11/03
アッシュ姉
73
著者五冊目。これまたよかった！時代は違えど現代にも通ずる悩みを抱えた人々に親近感を持てるところが、乙川時代小説の魅力のひとつ。境遇や世間のしがらみを言い訳にせず、自分らしく生きることで豊かな人生を送ろうとする姿に心が洗われる。乙川作品に出てくる男性は総じて地味な印象だが、女性は自力で道を切り開く強さを持ち、いきいきとして魅力的だ。つましい暮らしの中でもささやかな喜びを見いだし、生きていくことを愉しもうとする逞しさがある。「芥火」では声援を送り、「夜の小紋」の女将に憧れを抱いた。老後の目標は「虚舟」。2018/01/16
