出版社内容情報
失われた心の震えを回復するために、「僕」は様々な喪失と絶望の世界を通り抜けていく。渋谷の雑踏からホノルルのダウンタウンまで――。そこではあらゆることが起こりうる。羊男、美少女、娼婦、片腕の詩人、映画スター、そして幾つかの殺人が――。デビュー10年、新しい成熟に向かうムラカミ・ワールド。
村上 春樹[ムラカミ ハルキ]
著・文・その他
内容説明
失われた心の震えを回復するために、「僕」は様々な喪失と絶望の世界を通り抜けていく。渋谷の雑踏からホノルルのダウンタウンまで―。そこではあらゆることが起こりうる。羊男、美少女、娼婦、片腕の詩人、映画スター、そして幾つかの殺人が―。デビュー十年、新しい成熟に向かうムラカミ・ワールド。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
461
これは「僕」の2度目のイニシエーションの物語なのだろう。最後に「僕」は現実の世界に戻ってくるのだが、依然として現実との違和や齟齬は残る。そもそも、愛する相手を呼ぶのに、「ユミヨシさん」はないだろう。あるいは、「耳の美しい彼女」よりも名前があるだけでもましだろうか。そして、「あなたすごく良い人だったわ」と過去形で告げたまま別れたユキとは、「僕」あるいは、読者の僕たちは、またどこか先の物語で再会できるのだろうか。2012/06/11
zero1
334
死が色濃い中、人は踊っている?それとも踊らされている?生きるということは、何かを失うということ?舞台は83年。「僕」はユキと一緒にハワイへ行く。キキを見た「僕」は追いかけた先で6体の人骨を見る。これは【繋がっている】というメタファー。「国境の南、太陽の西」にも似た場面が。【再生と喪失】どころか失ってばかりの「僕」。【壁抜け】の意味は?彼の近くを人は通り過ぎていくだけ。でも彼は生きているしユミヨシさんもいる。村上作品は同じ所を巡っているようだが、残された者がいる。再生はこれからだ。何度読んでも興味深い。2019/10/27
tokko
219
何となく、日々の生活に追われて疲れてくると自然に手にしている本。この小説を読んでいると、システマティックな社会で生きていることがどれだけ人々を疲弊させるかが分かる。世の中に対して敏感な人ほど、心を消耗させながら生きるしかない。心に闇を抱えてしまった五反田君や、不登校となって心を閉ざしてしまったユキは、僕たちの本当にすぐ側にいるように感じられる。2011/05/11
抹茶モナカ
192
34歳という設定ながら中年期に突入したような重苦しさが滲む中、ダンス・ステップを踏む主人公。1周しているかホテルに戻って来る。この作品は、軽やかに展開しながらも、読むと重苦しい気分にもなる。村上春樹さんの執筆当時の心性の投影ともとれる。BGMとして使われる古いロックの曲が、初読の時はわからない曲ばかりだったけれど、今ではわかるようになった。村上春樹さんと同世代の人なら、主人公の嗜好の描写なんかの心への響き方も違うのかもしれないな、と思った。2017/09/18
ハイク
186
この本で村上春樹の長編小説全てを読破した。13歳のユキと僕の会話は面白い。彼女のませてはいるが単刀直入に物を言う。僕の方がタジタジである。大人になる手前であり、物事を素直に見るからなのであろう。登場人物はユキを初め個性豊かである。僕の親友の俳優五反田はスマートである。ユキの母親アメは写真家であり仕事に夢中になると回りが見えなくなる。唯一普通の女性である「ユミヨシ」さん。終わり良ければ全て良し。読後感がすっきりしているからであろう。勿論羊男やハワイでキキの場面は幻の世界もあるが、一番読みやすい本ではないか。2015/11/09