内容説明
あらゆる物事を深刻に考えすぎないようにすること、あらゆる物事と自分の間にしかるべき距離を置くこと―。あたらしい僕の大学生活はこうしてはじまった。自殺した親友キズキ、その恋人の直子、同じ学部の緑。等身大の人物を登場させ、心の震えや感動、そして哀しみを淡々とせつないまでに描いた作品。
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- 評価
乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
1242
村上春樹独特のユーモア(それは、とりわけ僕と緑との対話に顕著なのだが)と、これも特有のニヒリズムが共存する作品。物語中には3人の死(しかも、いずれも自殺だ)が描かれるが、キズキの死に始まった「世界と僕との違和」は、ハツミの死を経由して、最後は直子の死によって逆説的に克服に向かっていく。それはやはり、僕にとっての一種のイニシエーションの物語ということになるだろう。エンディングは、ことのほかにせつない。2012/04/25
遥かなる想い
907
下巻は哀しい再生の物語だった。 この静逸さは何なのだろうか… 心を病んだ女性たちとワタナベ君の 会話が心に染み入る。 レイコさん、緑、そして直子、ハツミさん。 会話の中から窺われる彼女たちの 人生は、孤独で哀しいが、なぜか 前に向かおうとする 一筋の明るさを感じるのは著者の 意図なのだろうか。直子が生きる 世界と、まわりの世界…そこを 繋ぐワタナベ君の手紙。対比させながら 青春期の苦さをリリカルに 描いている物語だった。 2014/05/18
紅はこべ
645
永沢の就職祝いのシーン、ワタナベは永沢がハツミに意地悪していると思っているが、実はハツミに意地悪することによってワタナベへの鬱憤を晴らしているのではないか。永沢はワタナベに本命の恋人を紹介しているのに、ワタナベの方は自分の恋愛について全く永沢に語ろうとしない。そのことに傷ついているのでは?ワタナベに信頼されていないのは、永沢の自業自得でもあるが、そんなことで傷ついちゃう、意外と繊細で、お子様だったりする永沢。2017/03/05
zero1
547
死者は生き残った者たちから何かを奪う。人は途中で生まれ、終わりを見ることなく死ぬ運命にある。ならば、他の人に思い出を残すことが存在証明になる。ワタナベは直子にどう対応すべきだったか?私の目からはかなり誠実に思える。人は何故生きるのかを、この作品から学んだ人も多かったはず。レイコは今後どうなる?緑は?再読して分かったことがある。それは、死を意識しているからこそ今を真剣に生きることができるということ。メールが当たり前の時代にあって、作中の手紙はとても大きな意味を持つ。あなたは手紙を書いてる?真剣に生きてる?2018/11/07
ehirano1
529
「生の世界=緑」と「死の世界=直子」をワタナベは行き来することで答えが出まいと分かっている自分なりの生死の道筋を見つける物語だったのではないかと思いました。また、終盤のワタナベとレイコさんの行為は、レイコさんが直子の服を身に付けていたことから、おそらく「ワタナベが直子さんを未だに愛し続けるワタナベ自身との決別」の儀式だったのではないかと推測しています。エンディングも1Q84みたいで私は好きです。2024/08/17