出版社内容情報
中井 英夫[ナカイ ヒデオ]
著・文・その他
内容説明
アパートの一室での毒殺、黄色の部屋の密室トリック―素人探偵・奈々村久生と婚約者・牟礼田俊夫らが推理を重ねる。誕生石の色、五色の不動尊、薔薇、内外の探偵小説など、蘊蓄も披露、巧みに仕掛けたワナと見事に構成された「ワンダランド」に、中井英夫の「反推理小説」の真髄を見る究極のミステリー。
著者等紹介
中井英夫[ナカイヒデオ]
1922年、東京・田端に生まれる。東大在学中に吉行淳之介らと第14次「新思潮」を創刊。「短歌研究」「短歌」編集長として中城ふみ子、寺山修司、春日井建らを紹介。’64年、塔晶夫の筆名で『虚無への供物』を刊行、推理小説の墓碑銘とまで絶賛された。その後、『悪夢の骨牌』(泉鏡花文学賞)などの著作で人気を博した。’93年逝去、享年71
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ehirano1
188
ぶっ飛びのメタ展開には度肝を抜かれました、こりゃあ奇書ですわ!このメタ展開だけでも読む価値はあるように思います。一方で、前半戦で終始感じていた違和感の正体が本作の結論によって解けました。2023/08/13
七色一味
100
読破。三大奇書の1冊の下巻。これを「奇書」と呼ぶ理由がわからん…。これはアンチ・ミステリーなのかな? アンチ・ミステリーと言うなら推理小説全てを否定しなければならないが、何だかんだ言いながらこいつは立派な推理小説だし…。そう、私、この本の結末は、「実は密室なんてものは存在せず、事件には全て関連性はなく、事件も、事件性は認められない事故であり、結局【推理】することがいかに無駄で根拠のないものであるか」を滔々と述べて終わるのかと思ってましたよ。そう言う意味では、何か物足りなさを感じましたねぇ。2013/05/08
藤月はな(灯れ松明の火)
91
再読です。悪趣味なことだが探偵は事件を自分の物語として書き換え、犯人すらそれを促す。関係者を顧みずに事件を本来、事件とは関わりがない自分の物として弄ぶ化け物を私達は飼い馴らしていることへの警告も知らしめている。あの人物の告白にその人の最後の矜持が伺えて泣きそうになります。この作品があったからこそ、「私達、読者こそが犯人である」と題を撃った作品(深水氏のデビュー作や「クリスマス・テロル」)も生まれたのですね。2011/03/24
HANA
81
氷沼家を巡る事件もいよいよ佳境に。誕生石に薔薇、五色不動と事件に纏わるギミックは豪華なものの、肝心の事件自体はますます捉えにくいものとなってきている。真相自体はアンチ・ミステリ、探偵小説の墓碑銘と呼ばれているのにふさわしいけど、今となっては色々と模倣したもの、影響を受けたものに思い当たるな。ここでの「死」に纏わる言葉や真犯人の正体は何となく笠井潔の問題提起等を思い出したりする。その傾向はマスコミやネットの発達によって、ますます顕著になっているような。そういう意味では現代に通じる普遍性を持った名作である。2022/05/16
ふじさん
81
【上下巻併せての感想】凡そ十五年振りの再読。所謂「三大奇書」の中では最も平易で、一般的な本格推理の範疇で楽しめる作品…という認識だったのだが、改めて読み直すと印象が大きく変化しており驚いた。感覚としてはむしろ前回よりも難解に思えた程で、こういった再読体験は初めての事。何と傷付き易く悲壮な精神に裏打ちされた一作か。人間の生き死に、ミステリという文芸、それを愛好する心理。汲めど尽きせぬ暗合と詩情から物語の内外問わず無数の物語を見出さざるを得ない構造は、まさに虚実の境を曖昧に溶かし読者を眩暈する奇書の風格その→2022/01/09




