内容説明
子供をさらって手にかける老人の秘密。裁きを終えた事件の裏に匂い立つ女の性。小伝馬町の牢内に沈殿する暗く悲しい浮世の難事を、人情味あふれる青年獄医がさわやかに解決する。だがある日、かつての捕物の恨みから、登の命をもらうと脅す男が現れた―。著者が五年にわたって書き継いだ傑作シリーズ完結編。
著者等紹介
藤沢周辺[フジサワシュウヘイ]
昭和2年12月26日、山形県に生まれる。昭和24年3月、山形師範学校卒業。昭和48年1月、「暗殺の年輪」を「オール読物」(三月号)に、同作品で第六十九回直木賞を受賞。平成7年紫綬褒章受賞。平成9年1月死去
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yoshida
139
シリーズ完結。新たな道を歩き始める登。江戸で叔父の家に住み込み、獄医を始めてから月日は流れる。時は流れ人は新たな道を進む。酒に目がない叔父。口うるさくも登を頼りにする叔母。最も大きく変わったのは従妹のおちえだろう。おちえの友人のおあきや、登の道場仲間の新谷等、人はそれぞれに戻らない時間を生きる。人生の一瞬を大事にしながら。人情の機微が巧みに描かれ、郷愁と哀切を読者の心に呼び起こす。読みながら自分の人生を振り返り、将来に思いを馳せる。人情に捕物に、登の柔の技。藤沢周平さんの魅力が充分に詰められた名作品集。2019/09/22
ふじさん
96
シリーズ最終作。今回も登場人物は悲劇の種を背負って生きる人々。それを登は、颯爽とした動きと柔をわざを駆使して解決していく。そんな登にも、新しい旅立ちが待っていた。獄医を辞め、叔父叔母の勧めで、大阪への医の修行へ行くことになる。当然、おちえとは夫婦の契りを結ぶことになる。一人の若者の青春物語も終焉を迎えた。物語の色調は暗かったが、市井物としては十分読み応えのある内容だった。個性豊かな叔父と叔母の存在、おちえとの関わり合い、やわらの描写等、楽しませて貰った。もしかしたら、続編もあったかもしれない。2023/04/26
s-kozy
95
獄医立花登手控え四巻、ついに完結。じっくり、ゆっくり読んできて終わってしまいました。勧善懲悪の時代物なのに主人公が剣術使いではないというのがいいですよね。しかも以前の柔術は打撃技を重視していたことがよく分かる。丁寧な風景描写が心情描写にも重なっていくという著者らしさも味わえる佳作でした。出久根達郎さんの解説もよい。唯一、読み終わってしまったことだけが残念なこと。2015/05/14
goro@the_booby
61
獄医立花登シリーズ最終巻。恐ろしいが気に入ったのは「女の部屋」すべては大黒屋女房おむらが仕込んだ事件に違いないのだが、夫を裏切りながらも店を支えるのだが色は抑えられない。男からすれば多分に放って置けない女に見えて惹かれるのだな。亭主の体の件もあるが何とも哀しいサガとしか言いようのない事件。そしてシリーズ最後でようやくでありました。おあきも含めそれぞれに大人になって行ったな。「お別れ」は寂しい。卑しい街を行く清々しい立花登シリーズでありました。【海坂藩城下町読書の集「冬」】イベント参加中。2016/12/25
shincha
58
連作短編集の中で起こる様々な出来事。この短い中で時代小説ミステリーを完結させる藤沢周平さんの筆力に圧倒される。ひとつひとつの作品にそれぞれ悪者の思惑や、女の情念や、男の捻くれた気持ちや……色々な変化球があって、読む人を飽きさせない。なんか良い感じの方向に進むな…大阪に行った立花登の成長物語を見たいなと思うし、大阪から帰って来た獄医ではない登とおちえの作品も読みたいと切に思うけど…それは叶わないんですね。夏に山形の藤沢周平記念館に行ってみようかな〜。楽しい読書でした。2023/06/22